きらきら星変奏曲 ll

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リハビリ開始から約一ヶ月、私の右手は相変わらず微動だにしてくれないまま固まっている。






毎日リハビリに通った。一日中動けと念じた。

でももう自分の意思さえ通っていない其れが私の願いに応えてくれるはずもなく、何も変わらぬままただ時間だけがゆっくりと過ぎていった。






『お顔立ちがハッキリしてきましたね。口元はお母さん似かしら』






妊娠22週 推定体重443g

モニターに映し出された我が子はまた一回り大きくなり、私のお腹の中で元気に動いていた。






『また少しお腹が張っているみたいだから、あまり負担をかけないように気をつけて下さいね』






頻繁に感じるようになった胎動と、日に日に大きくなってゆくお腹が、私の唯一の喜びだ。

音の無い明日にも生きる意味が在るのだと、唯一教えてくれるのはこの子だけ。






『ご主人もあまりストレスがかからないよう、気をつけてあげて下さい』

篤「はい」






それなのに何故なのだろうか。

エコー写真を受け取る左手が、僅かに震えたのは






早く会いたい。早く産声を聞きたい。

なのにどうしてなのだろう。其の日が近づく度に、恐怖と不安がじわじわと増してゆくのは。






『会えるのが楽しみですね。お母さん』

「…はい」






油断すればもうすぐ其れは、幸福にも勝ってしまうような気がする程に。






篤「ね、ちょっと寄り道してかない？」

「え？」






だって私はきっとこの子を抱くことも、あやすことさえも、何も上手くは出来ないのだ。






篤「買い物」






母になるのに、生まれてくる我が子に、何も満足にしてあげられないのだ。






「…」






エコー写真を優しく撫でながら、" こいつの "と穏やかに笑ってみせた彼。






本当なら私も、同じ笑みを浮かべていたはずで。

母親なら、そうでなければならないはずで。






「…うん」






必死に幸福を取り繕い、襲ってくる恐怖を掻き消すように拳を握る。

強く軋む程に握り締めたはずの右手は、今日もぴくりとも動いてくれぬまま力なく揺れていた。

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