26.Atsuto side / 26 ページ26
彼女と揃ってベッドに入ったのは23時を回った頃だった。
電気を消し、彼女に布団を掛けてやる最中、お腹に触れた拍子に トン と感じた小さな衝撃。
篤「いま動いた?」
「うん」
彼女は頷きながら小さく笑った。
でもやはり、俺の知っている其れではない。
そういえば彼女のお腹が出始めた頃から、其の身体を抱き寄せる代わりに毎晩右手を握って眠っていたけれど、
今俺の左手はただ何も出来ずに、布団の中で手持ち無沙汰に揺れているだけ。
篤「…おやすみ」
もし触れ方を少しでも間違えてしまったなら、
余計に傷つけてしまいそうで。
「……私、抱っこ出来るのかな、」
暗闇の中で不意にボソッと聞こえた其れは、
まるで出口の見えない絶望の中で独り泣いているかのようだった。
「オムツ替えられるかな、」
震えているかのようだった。
「着替えさせてあげられるかな、」
叫んでいるかのようだった。
「自分のことさえちゃんと出来ないのに、この子にやってあげられるのかな、」
大丈夫だよ 頑張ろう 俺がついてる
思いつく言葉はどれもが陳腐過ぎて、俺はまた何も言えないまま。
「ちゃんと、お母さん出来るのかな、」
もし触れ方を少しでも間違えてしまったなら、
余計に傷つけてしまいそうで、怖い。
「…おやすみなさい」
俺は布団の中で手持ち無沙汰に揺れている左手を、ただ握り締めることしか出来なかったーー
**********
初めて覚えたのはきらきら星の旋律だった。
と言っても物心ついた頃にはもう弾けるようになっていたから、いつ其れを覚えたのかは定かではないけれど。
遊び道具といえば専らピアノで、おままごとや泥遊びをした記憶もあまりない。
いつも白黒の鍵盤と一人向き合っていた私は、きっと周りの目には風変わりな子供に映っていただろう。
耳に入ってくる音は全て音程に聞こえた。
其れを楽譜に変換することは簡単だった。
生活音や人の話し声も例外ではなく、此の世の全ては音楽で成り立っているのだと当たり前のように思っていた。
違うと知ったのは小学生の頃だ。
友達の話し声に合わせ何気なく鍵盤を叩いていた時、気味悪そうに向けられた視線に、自分の世界は人と違うのだと初めて気がついた。
音楽に溢れていたのは此の世ではなく、自分の体の方だったのだと。
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ぶたさんなの。(プロフ) - 昨日、今日と2日間かけて一気読みしました笑とても素敵な作品で浮気疑惑のところはやられたーって思ったりピアノの話になるたび私も練習しないとと思わされます笑 この作品は私の中で大好きな作品の1つになりました。 (2015年7月31日 23時) (レス) id: fb6db84d89 (このIDを非表示/違反報告)
おりん(プロフ) - laizさん、返信ありがとうございました!!ヒロインと内田さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきそうなシーン…嬉しいな〜!幸せそうな二人を見れて一安心…ここでスカルのベビー服!?内田さんもイカついの着てましたね!思い出して笑っちゃいましたよー(笑) (2015年6月16日 1時) (レス) id: 865a51165f (このIDを非表示/違反報告)
aquayu(プロフ) - 更新楽しみにしていました!希望の光が見えた瞬間、涙がとまらなくなったのは、私だけでしょうか?この作品、本当に本当に大好きです。 (2015年6月5日 22時) (レス) id: ff637bb026 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - おりんさん» 絶望の涙で泣き明かした夜だけど、この先に光が待っていそうな涙ですよね。思いっきり泣いて、何かが浄化してくれたらいいな。ちょっと足踏みしていた二人の背中を、「しっかりしてよ」と押してくれたのかもしれませんね^^そうそう、先程メッセージを送信しましたよ〜♪ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - すみれさん» 「大好き」のお言葉、動揺していた心に染み渡りました^^ありがとうございました。少し迷っていましたが、ようやく希望の光がさしてきた二人の世界、これからも変わらず執筆を続けていこうと思います。二人の、いや、三人の明るい未来、見守ってあげて下さい^^ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2015年2月7日 20時