21.Atsuto side ページ21
「今からイメージトレーニングしておこう」
ベットサイドの棚からiPhoneを取り出し、其れに繋いだイヤフォンを片耳に嵌めた彼女。
もの静かな病室の中、微かにきらきら星変奏曲が聴こえてきた。
「一応、頭の中では右手も弾いてるつもり」
綺麗な左手を軽やかに動かしながら、鼻歌混じりに穏やかに笑う。
弾む声で奏でるその旋律に、何故だが耳を塞ぎたくなる。
「あっ、いま動いた」
篤「え?」
「胎動!ほら」
促されるままに彼女のお腹に手を添えれば、其処はぽかぽかと温かくて。
そして確かに トン と、初めての胎動を感じた
「きっとこの子も、きらきら星変奏曲がお気に入りなんだね」
其れは俺たちの宝物が生きている証で。
この上ない幸福を与えてくれる感触で。
あんなにこの瞬間を待ち侘びていたというのに、相変わらず俺は上手く笑えないまま。
「お父さんも聴く?」
だってもうすぐ、
その笑顔が消えてしまうとわかっているから。
篤「…いや、いい」
柔らかく穏やかな笑顔を見つめながら、きっと最後になる其れを目に焼きつける。
「リハビリ、頑張らなきゃね」
心が毟り取られていくような感覚がしたーー
約一ヶ月間彼女の右手を覆っていた包帯が解かれたのは、翌日の昼下がりのことだった。
空には分厚い雨雲がかかり、風が窓硝子をカタカタと揺らし、しとしとと落ちる雨粒の音がもの静かな病室に響き渡る、仄暗い雨の日のことだった。
『では、包帯を外していきますね』
彼女は待ち侘びていた瞬間に心を踊らせていた
その顔は目を背けたくなるほどに晴れやかで、仄暗いこの病室には似合わない。
「リハビリってどんな事をするんですか?やっぱり、初めはボールとかを使って握力を戻していくんですか?」
看護師が包帯を解いている最中、彼女が無邪気にリハビリ医に問いかける。
『いえ。まずは、ゆっくりと関節を曲げるところから始めていきましょう』
冷たい静寂が 病室を包んだ
彼女は戸惑いの表情を浮かべながら此方を見たけれど、相変わらず俺は何も言えないまま。
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ぶたさんなの。(プロフ) - 昨日、今日と2日間かけて一気読みしました笑とても素敵な作品で浮気疑惑のところはやられたーって思ったりピアノの話になるたび私も練習しないとと思わされます笑 この作品は私の中で大好きな作品の1つになりました。 (2015年7月31日 23時) (レス) id: fb6db84d89 (このIDを非表示/違反報告)
おりん(プロフ) - laizさん、返信ありがとうございました!!ヒロインと内田さんの楽しそうな笑い声が聞こえてきそうなシーン…嬉しいな〜!幸せそうな二人を見れて一安心…ここでスカルのベビー服!?内田さんもイカついの着てましたね!思い出して笑っちゃいましたよー(笑) (2015年6月16日 1時) (レス) id: 865a51165f (このIDを非表示/違反報告)
aquayu(プロフ) - 更新楽しみにしていました!希望の光が見えた瞬間、涙がとまらなくなったのは、私だけでしょうか?この作品、本当に本当に大好きです。 (2015年6月5日 22時) (レス) id: ff637bb026 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - おりんさん» 絶望の涙で泣き明かした夜だけど、この先に光が待っていそうな涙ですよね。思いっきり泣いて、何かが浄化してくれたらいいな。ちょっと足踏みしていた二人の背中を、「しっかりしてよ」と押してくれたのかもしれませんね^^そうそう、先程メッセージを送信しましたよ〜♪ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
laiz(プロフ) - すみれさん» 「大好き」のお言葉、動揺していた心に染み渡りました^^ありがとうございました。少し迷っていましたが、ようやく希望の光がさしてきた二人の世界、これからも変わらず執筆を続けていこうと思います。二人の、いや、三人の明るい未来、見守ってあげて下さい^^ (2015年6月5日 21時) (レス) id: 4d225c15a4 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:laiz | 作成日時:2015年2月7日 20時