きらきら星変奏曲 ll

20.Atsuto side ページ20

あの日から四週間、彼女の入院生活はまだ続いていた。






彼方此方に残されていた傷や痣は殆どが消え、打撲箇所もほぼ完治しているのだが、お腹の張りが中々治まらずに、まだ絶対安静でいる必要があるらしい。



トイレや食事以外の時間を、一日中ベットで横になって過ごさなければならない生活に、最近では彼女もストレスを感じ始めてきているようだったが、今日は久々に晴れらかな笑顔で笑っていた。






「来週に退院出来るって」






午前中に初めて4Dエコーで胎児の様子を見せてもらったらしい彼女は、エコー写真を此方に差し出しながら興奮気味に声を弾ませる。






「性別もわかったの。聞きたい？」

篤「うん」

「男の子だって」






その顔はやはり、穏やかで。






「やっぱり名前は響くんかな。タクトくんだと指揮者だけになっちゃうもんね。響くんなら、何の楽器やっても平気だと思わない？」

篤「うん」

「でも篤人くんは蹴人くんか豪琉くんが良いんでしょ？サッカーやらなかったらどうする？」

篤「うん」






大した反応を見せない俺を見て、彼女は申し訳なさそうにエコー写真をしまいながら、” 疲れてる？ ”と不安げな声を零した。






篤「あぁ、…いや、全然平気」

「毎日来てくれなくてもいいからね？大変でしょ？」






上手く笑えずに余計な気を遣わせてしまうのは最近では良くあることだった。

情けないけれど、どうにもならない。






「そういえば、明日ギブスも取れるみたい。早速軽いリハビリを始めてみましょうって」






だって、もうすぐその笑顔が消えてしまうとわかっているのだから。






「リハビリってどんな事するんだろう？最初はやっぱり、文字書いたりすることから始めるのかな？上手く書けなくなってたりするのかな」






きっと、そのペンさえ握れない。






「あと小さいボール握ったり、ハンドクリップ使ったりするの良く見るよね。でも私握力強いから、あれ全然辛いと思ったことないの」






きっと、力さえ入らない。






「どのくらい動かなくなってるのかちょっと怖いけど、でも楽しみだな。やっと右手が自由に動かせるようになるんだもん」






「 その右手はもう動かない 」のだと知った時、彼女は立っていられるのだろうか。

俺は其れを、見ていられるのだろうか。

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