きらきら星変奏曲 ll

12.Atsuto side ページ12

ケラケラと転がる笑い声を
名前を呼ぶ柔らな声を
世界で一番美しいピアノの音を

俺たちの宝物にも聴かせてあげてほしい






そして産まれてきたら先ず初めに、お母さんがお前を守ったんだって教えてあげよう。






『裂傷がとても深く、右手の伸筋腱を四本断裂していました。……最善を尽くしましたが、



障害が残ることは避けられません』






プツン と、何かが途切れた音がした。






それはまるで



幸福な世界の終結を知らせるように

絶望の世界の入り口の扉が開くように






” 音 ”のない世界の 始まりのようにーー






松「障害って…、何ですか、それ……

リハビリすれば治るんですよね！？また、元に戻るんですよね！？」






その世界は意外にも穏やかだった。



もっと叫びたくなるものかと思ったけれど、
悲鳴を上げてしまう程かと思ったけれど、






訊きたいことは山ほど在るのに、
確かめたいことは山ほど在るのに、



声を発することすら出来ないのだから。






松「ピアノ、弾けるようになりますよね！？」






ただただ呆然と、自分の右手を眺めていた。






『何年、何十年後には、もしかしから弾けるようになっているかもしれません。

でもそれは、簡単な曲なら、という程度です』




松「………そんな、」




『申し上げにくいですが、プロとしては致命傷です。生活にも支障を来すことになるでしょう。

ピアニストとしては、もう……』






ーーーtrauervoll…



＜手は命より大切だから。だから自分の身を守る時は、手じゃない他の何かにしないと＞



ーーー






ただただ呆然と、自分の右手を眺めていた。






ーーーtrauervoll…



＜…エリザベート王妃国際音楽コンクールに、出てみないかって言われたの＞

＜………挑戦したいと思った。…だから、ウィーンに行きたいと思った＞



ーーー



ーーーtrauervoll…



＜……あれは…音楽家としての飛躍のためにウィーンに旅立つショパンが、故郷への告別の意味を込めて作った曲＞

＜……頑張るね。…頑張る＞



ーーー






ただただ呆然と、自分の右手を眺めていた。

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