八百八十話目 「奴であって奴でない」 ページ35
クスクスと笑う奴にまた眉を顰めた。分かりやすいと言われたことにもだが、その笑い方はあいつではない。
『だからさあ、一々機嫌悪くしないでって。私は「歌龍A」じゃないんだから』
「違うのか？」
『違うでしょ。だって私は存在しない人格だもの』
目を細めてそう言い切った女。その表情は見たことがある。奴と同じだ。
ならばやはり。
「お前も「歌龍A」だな」
『え？さっきまでの態度とはとんでもない矛盾じゃん』
「一緒ではないが、お前も間違いなくあいつだ」
『あははっ、なにそれ！』
やっぱり笑顔は違うな。自分でも矛盾過ぎるほど滅茶苦茶なことを思っているとは理解しているが、今更あのバカ絡みでまともな思考を使って考えるのは無意味であろう。
そう思いながら見ていればひとしきり笑って満足したであろう女がにっこりと微笑んだ。
『私さ、消えようと思うの』
「消える？」
『そう。「俺」の力も何個か犠牲にするけど、もう私はいないほうがいいだろうから』
「一応理由を聞いておこうか」
『へえ、気になるの……』
ふぅんと面白そうに見てくる女から目を逸らす。
同じ顔をしているのにいけ好かない。
また小さく笑った女は声音を明るく作って語り始めた。
『私がいたんじゃ、「俺」は何時までもあのままだと思う』
「だがお前は奴を護る為に存在してるんだろう」
『そうよ。だから消えるの。もういらないし、ない方がよさそうだから』
「………」
『私はずっと「俺」のなかで見てた。ここに来た当初からすると相当変わったわよ。誰かと一緒にいること自体に恐怖を感じなくなったし、少しは人に寄り掛かろうとするようになったわ』
心当たりあるんじゃない？と探るように目線を合わせられ、思わずふいっと顔をそらした。あのバカより数段扱い辛い上に面倒くさい。聞かなくてもあのバカの中にいたのならば知っているだろうに。
『で、知っての通り「俺」はギリギリまで我慢するじゃない？「私」の存在がある限り、過去の克服はなかなかできないわ………だから消えるの。私の望みも叶ったしね』
血だまりに沈む男を見てうっそりと笑う女は一瞬奴に見えた。ぞわりと体中に何かが這って回る。きっと恐らく俺は口角が上がっているだろう。奴の殺意は好きだ。これだけは違わないと断言できる。
『というわけで、「俺」のことよろしくね』
「なぜ俺が」
『だって……いや、これは私が言う事じゃないわね』
楽しそうに笑う女はやはり奴ではなかった。
八百八十一話目 「お前は私で俺で」→←八百七十九話目 「邂逅」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 519人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
涙腺崩壊日本人 - 2章まってます！！！！！ (2022年9月9日 21時) (
レス) @page50 id: 66bf482254 (このIDを非表示/違反報告)
涙腺崩壊日本人 - ルッチさんの為なら、いや、更新のためなら天に召されても良い、、、、 (2022年8月18日 0時) (レス) id: 66bf482254 (このIDを非表示/違反報告)
涙腺崩壊日本人 - ルッチさん好き過ぎる作戦隊長さん、ありがとう感謝します私は貴方のおかげでルッチさんに目覚めることが出来ました！ワンピが帰ってくるのを待つぜ！更新お願いします！！超超超超超超超超超大好きです！ (2022年8月18日 0時) (レス) id: 66bf482254 (このIDを非表示/違反報告)
ルッチさぁぁぁん - ホントわかる、、ルッチさん好き (2022年5月11日 23時) (レス) @page44 id: 66bf482254 (このIDを非表示/違反報告)
狐竜(プロフ) - ぴゃ！！！？？（大混乱）やった久々の更新！！！ほんともうこのシリーズのルッチさん大好きなんですよ私……嬉しい…！！！ (2022年3月28日 21時) (レス) @page46 id: 2674e8aa46 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
