八百四十二話目 「閑話休題 祝福前夜」 ページ46
ドレスローザに向かっている船の中。
ルッチさんの検診を終え、医務室を出て部屋に戻ろうとしたときふと、壁に貼ってあったカレンダーが目に留まった。
目敏く気づいたルッチさんが「どうした」と聞く。
『え？……ああ、なんともないです』
「………」
『………なんですか？』
「いや、いい」
よくわからないルッチさんに首を傾げながらも「ふぁあ……」と欠伸が洩れた。昨日もチェスのお陰で夜更かしだったし、今日の昼間は海賊船に喧嘩を吹っ掛けられたので軽い運動を行っている。
そのせいでこの始末。時計を見れば午後十時半は過ぎていたのでおこちゃま体内時計ではなさそうだ。よかった。
部屋に戻ってベッドにダイブして唸っていれば、続いてルッチさんもベッドに寝転がった。二人でこうやって寝るのにも慣れてしまったわけで……慣れていいのかコレ。
「で」
『え？』
「なぜカレンダーを見てしかめっ面を晒していたんだ」
『………明日』
誕生日なんですよ。
ちゃんと言葉にできたかはわからないくらい小さい声だったが、ルッチさんは拾ってくれたらしい。
「そうか」
『………毎年なんですけど、前日は零時前に寝て、誕生日はなるべく遅くまで寝て、なるべく早い時間に寝るんです』
「………」
『おかげで次の日めちゃめちゃ早起きですよ』
「まるで年寄りだな」
『そんなこと言わないでくださいよ。また十代ですって』
「……寝なくていいのか？」
『いや、寝ます。もう十一時過ぎる頃でしょうし』
「ん」
俺を引き寄せて抱き枕の代わりのように腕の中に俺を閉じ込めたルッチさん。
低いけど、ちゃんと温かい体温に、とくとくと落ち着いた心臓の音。
それを聴きながら目を閉じて聞いた。
『聞かないんですか？』
「何をだ」
『………明日、俺の自堕落に付き合ってくれます？』
「気分次第だな」
頭を撫でられた。意識がまどろんでくる。
明日は九時過ぎに起きてルッチさんに薬を飲ませたらまた寝よう。
昼の一時くらいにまた起きて、また寝て、夜ご飯時に起きて、お風呂入って寝る。
去年と変わらない一日。
今年は、なぜかひとりじゃないけど。
すうすうと眠る腕の中のバカ。
どうやら明日が誕生日らしい……もう数分後か。
「誕生日、か」
女子供はそういうものが好きだろうに。
睫毛に絡まっていた前髪を払うと、形のいい額があらわになる。
壁の時計が零時を知らせた。
「………おめでとう」
ちゅ、と額にキスをした。
聞かせる気のない祝福を、お前に。
八百四十三話目 「閑話休題 祝福の日」→←八百四十一話目 「愛と情熱の」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜月レナ(プロフ) - はじめまして(*^-^*)すごく楽しんでに読ませてもらってます（語彙力orz） 更新頑張って下さい(’-’*)♪ (2019年9月6日 21時) (
レス) id: 1844904407 (このIDを非表示/違反報告)
sile - いや最高すぎません？？めちゃくそルッチさん好みにどストライクなんですが。ルッチさんオチだといいなと思ってます(してほしい)ゆっくりで構わないので更新頑張ってください！お体には十分気を使った上でですよ…？w (2019年8月18日 0時) (レス) id: 801c11ec84 (このIDを非表示/違反報告)
リリ - 最高です。これからも応援してます。 (2019年8月13日 1時) (レス) id: 199549db1c (このIDを非表示/違反報告)
レン - ウォォォォォォォォオ！！！！！！！メッチャ面白かった！！！さっっっっっっっいこっう (2019年7月18日 6時) (レス) id: dc4a31061c (このIDを非表示/違反報告)
シスター - 初めまして。シスターと申します。最初の作品から見させて頂きましたが、良い展開になって来ましたね！次が更新されるのが楽しみ過ぎて眠れないですwオチはルッチさんですかね？私の推しなので嬉しいです！ (2019年6月11日 11時) (レス) id: be6a289acb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
