八百三十五話目 「約束などでは生温い」 ページ39
泣きながら俺にしがみつくこと数分。
落ち着いたらしい奴が顔を上げた。目は腫れてしまってるし、涙の跡が残っているし、ズビズビ鼻は啜ってるし……涙をシャツにつけるのは百歩譲って許すが鼻水は許さねえぞ。
目の端に残った涙を親指で拭ってやりながら「それで？」と問う。
『？』
「急にわけのわからない問いかけを寄越しておいて説明なしはないだろうな」
『……で、ですよねー。あははは』
「誤魔化すな」
『いひゃい！いひゃいふぇす！！』
頬を抓ってやれば眉間に皺をよせて痛いと騒ぐ。そのくらいの元気が残っていれば十分だろうと手を離した。奴は頬を擦りながら俺から目を逸らし、そのまま視線を泳がせる。
静寂が流れ、奴が身じろぐ音だけが部屋に響く。キュッと俺のシャツを握りなおし口を開いた。
『………チェスやってて思ったんですけど』
「あァ」
『腕がなくなったり、指がなくなったり、脚がなくなったり………色々なくなって戦えなくなったら、俺に一切の価値はないなって』
はは、と自嘲気味に笑うバカ。俺の様子を窺うように視線を寄越すので「いいから続けろ」とでも言うように頭を撫でた。
『多分俺は、戦えなくなったら死にたくなると思うんです』
「………」
『だって、強さは俺の全てだから。強さの上に成り立ってるのが俺の正義だから。戦えないまま生き続けても腐っていくだけです。そんなの絶対に認めない。俺が俺じゃなくなるなんて絶対に。だから……だから俺が戦えなくなって、何もできなくなったら。心まで腐って弱くなる前に、俺が俺であるうちに…………俺を殺してください、ルッチさん』
二つの赤が俺を射抜く。殺してくれと口ずさむその表情はどこまでも穏やかだ。穏やかに、笑っている。俺を見つめて笑っている。
綺麗だと、美しいとそう思った。
「……熱烈な口説き文句だな」
『ルッチさん』
「あァ、心配しなくても殺してやる」
『へへ、約束ですよ………じゃあ、また明日』
もう一度笑った奴は宝石のような目を瞼の裏に隠した。
数分後にはすやすやと寝息を立て始める。赤い髪を梳くように撫でた。
「約束なんて温い言葉で終わらせるなバカヤロウ」
薄く開いている奴の唇を親指の腹で撫でた。
タダでは死なない……いや、死にたくても死ねないだろうこいつが万一の救済として「殺す」ことを、「終わらせる」ことを俺に託して来たのだ。
それは即ち…………。
「………誓ってやる」
お前を殺すのは俺だ。
奴の唇に自分のそれをそっと合わせた。
八百三十六話目 「もっかい、今度は自分から」→←八百三十四話目 「頼み事」
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夜月レナ(プロフ) - はじめまして(*^-^*)すごく楽しんでに読ませてもらってます（語彙力orz） 更新頑張って下さい(’-’*)♪ (2019年9月6日 21時) (
レス) id: 1844904407 (このIDを非表示/違反報告)
sile - いや最高すぎません？？めちゃくそルッチさん好みにどストライクなんですが。ルッチさんオチだといいなと思ってます(してほしい)ゆっくりで構わないので更新頑張ってください！お体には十分気を使った上でですよ…？w (2019年8月18日 0時) (レス) id: 801c11ec84 (このIDを非表示/違反報告)
リリ - 最高です。これからも応援してます。 (2019年8月13日 1時) (レス) id: 199549db1c (このIDを非表示/違反報告)
レン - ウォォォォォォォォオ！！！！！！！メッチャ面白かった！！！さっっっっっっっいこっう (2019年7月18日 6時) (レス) id: dc4a31061c (このIDを非表示/違反報告)
シスター - 初めまして。シスターと申します。最初の作品から見させて頂きましたが、良い展開になって来ましたね！次が更新されるのが楽しみ過ぎて眠れないですwオチはルッチさんですかね？私の推しなので嬉しいです！ (2019年6月11日 11時) (レス) id: be6a289acb (このIDを非表示/違反報告)
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