八百三十四話目 「頼み事」 ページ38
『結局一勝もできなかった……悔しい』
「そう簡単に勝てれば苦労はしないだろうが」
『……それもそうですね』
間接照明だけを灯した薄暗い部屋の中。夜も深まり寝ようかとベッドに横になればもはや慣れたように俺の横へ寝転がってきたバカ。枕に顔を埋めながら今日のチェスの不満を漏らしていたので小馬鹿にしてやった。
枕に顔をうずめたまま拗ねたように肯定して来たので適当に頭を撫でておいた。バカは単細胞なのでこれで顔を上げる。……ほらな。
『ルッチさん』
「なんだ」
『………やっぱなんでもないです』
「気になるから言え」
上げた頭を再び枕に押さえつけてやれば慌てたようにモゴモゴと暴れる。なんだかおもしろくてクツクツ笑えば「んーー！」と怒っている。が、聞こえないふりをしてやった。
暫くして解放してやれば顔を赤くしたバカが口をへの字にして顔をあげる。
「言え。拒否は認めないからそのつもりでな」
『………俺が俺を殺してくださいって言ったら、殺してくれますか？』
「……………来い」
何を思ってそれを聞いているのか、なぜそんなことを突然言い出したのか。
問いただしたいことは山ほどあるが、この状態のバカはとりあえず閉じ込めておくに限ると腕を広げた。
大人しく寄ってきた身体を腕の中に招き入れた。キュッと俺のシャツを掴んだ奴が大きく呼吸をする。肩の力がぬけたようだ。
「先に返事を聞きたいか？それとも質問の理由を言うか？」
まだ何も感じ取らせないほうがいいだろうと努めて平坦な声で問いかける。
少しの間の後、「返事」と単語だけ返ってきた。ん、と答えて奴の髪を梳く。
「返事だが………問答無用で殺すに決まってるだろうがバカヤロウ」
『ッ………なんでですか』
「殺したくても殺されてくれない奴を確実に殺せる絶好の機会をミスミス逃すか」
『そうですか………』
「………それに」
口にするか悩んだが言ってしまうことにした。
言葉が続くと思わなかったらしい奴は驚いたように少し身体を離してから、じっと俺の顔を見る。
「死にかけることはあっても、お前は滅多に死にたがることはないだろう」
『…………』
「それがお前の意志で覚悟で本心なら……俺が殺してやる」
目を見開く奴の赤い目に俺が映っている。
恐らく俺の目には奴が映っているだろう。
ゆらり、映っている俺が揺らいだ。そしてあどけなく笑った奴の眼から、ポロリと雫がこぼれる。
可笑しな奴だ。殺すと言われて嬉しそうに泣いてやがる。
八百三十五話目 「約束などでは生温い」 →←八百三十三話目 「キングは誰か」
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 496人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ONEPIECE」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜月レナ(プロフ) - はじめまして(*^-^*)すごく楽しんでに読ませてもらってます（語彙力orz） 更新頑張って下さい(’-’*)♪ (2019年9月6日 21時) (
レス) id: 1844904407 (このIDを非表示/違反報告)
sile - いや最高すぎません？？めちゃくそルッチさん好みにどストライクなんですが。ルッチさんオチだといいなと思ってます(してほしい)ゆっくりで構わないので更新頑張ってください！お体には十分気を使った上でですよ…？w (2019年8月18日 0時) (レス) id: 801c11ec84 (このIDを非表示/違反報告)
リリ - 最高です。これからも応援してます。 (2019年8月13日 1時) (レス) id: 199549db1c (このIDを非表示/違反報告)
レン - ウォォォォォォォォオ！！！！！！！メッチャ面白かった！！！さっっっっっっっいこっう (2019年7月18日 6時) (レス) id: dc4a31061c (このIDを非表示/違反報告)
シスター - 初めまして。シスターと申します。最初の作品から見させて頂きましたが、良い展開になって来ましたね！次が更新されるのが楽しみ過ぎて眠れないですwオチはルッチさんですかね？私の推しなので嬉しいです！ (2019年6月11日 11時) (レス) id: be6a289acb (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
