組織のNo.2は最推しに瓜２つだった件について５

２３７話、失望させるな ページ42

「………は？」


「何故お前ごときに彼女の大切な時間を割いてやらねばならん？身の程を弁えろよ──」


余計な一言が兄貴の耳に届いたその瞬間
その場の空気が酷く凍えた
襖の側に待機していた俺も
石田の兄貴を含め、兄貴以外のその場に居た者は全員圧縮した

何よりも──この場に居る誰の命よりも兄貴ならAさんを優先するだろう

ましてや、そんなAさんの時間を──赦す気もない謝罪の為に

唾液を飲む喉の動きが痛くなるほど、俺の喉が乾ききっていた
目を合わせたら死ぬんじゃないか──そう、錯覚させるには充分すぎるほど兄貴から殺気が滲み溢れていた


そんな時──


その場に不釣り合いな音が響いた

ソレは兄貴のプライベートの携帯からで──
何食わぬ顔で着信を確認する兄貴の表情がほんの少しだけ緩んだ気がした
今の現実を受け入れたくなくって見せた幻覚かもしれないが、それでも少しだけ助かった気になったのは俺だけではないハズだ


「……少し出る」
「！ 分かりました！直ぐに車を──」
「いや、俺一人で出る…お前はここに残れ」
「は、はい！お気を付けて…」


少し考える素振りを見せた兄貴はゆっくりと息を吐き捨て
確認を終えた携帯を胸ポケットにしまい、兄貴はソッと俺に指示を出した
兄貴が緊急で出るのは対して珍しくはない
だが、プライベートの携帯が鳴ったっと言うことは相手は──


「石田──俺はお前のコトを気に入っているんだ………あとは、分かるな？」
「………ッ！…はい、若の仰せの通りに…ッ」


石田の兄貴の肩を軽く叩き、兄貴は部屋を後にした
兄貴の


これ以上、俺を失望させるな


そんな隠語をその場にいる誰もが理解した


自分の撒いた種は自分で何とかしろ──


チャンスをくれた兄貴の優しさなのだろうか、


「……田中の所へ行くぞ」


普段の温厚な石田の兄貴とはとても想像がつかないほど
酷く冷たい声で放たれた言葉に全員が身を引き締めたんだ

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