9*さようならをしなくちゃ ページ10
やはり、そのカードはお前の物だ―――櫂はそう言い残して颯爽と姿を消した。
三和も置いて行かれまいとその後を追ったので、店内には二人の従業員の他はアイチとAが残されるだけとなった。
『…改めて。おめでとうございます、先導君』
「え、あ、ありがとうございます…?」
『私も行きますね』
「あ…あのっ、君の名前…」
Aはアイチの言葉を遮るように靴音を鳴らして振り向いた。
『今日、貴方に会えて良かったです。ありがとう。さようなら。先導君』
アイチの顔をろくに捉えないまま、Aはスカートを翻して駆け出した。
笑ってさよならを言える日が来るなんて思いもしなかった。
Aはまた一つ、心の奥底で燻っていた火種を鎮める事が出来たと思うと、僅かな安堵と、懐かしい罪悪感に襲われる。
残るのは微かな寂しさ。
自分がこんな人間でなければ、もしかしたら。
放課後に声を掛け合うでもなく集まって、一緒にカードファイトに興じるような友人になれていたのかもしれない。
そう思うと、のんびり歩き直す気にはとてもなれなかった。
*・*・*・*・*
「………あのさ」
「へっ!?あっ、はい」
Aに置いて行かれた形で呆然と立ち尽くすアイチに、女性店員がカウンターの中から声を掛けた。
店員は澄ました顔で、カウンター脇のボードを無言で指し示す。
「…?えっ!うわっ!す、すみません!」
「いい」
「えっ…?」
慌てて財布を探しにカバンの中を漁った手を止めた。アイチの表情は、不思議そうに固まっている。
彼女は頬杖を解かないままじっとアイチを見つめる。
「あの子が払ってったよ。アンタ達の勝負に水差さないようにね」
「え…」
「よく分かんないけどさ。お礼の一つは言っといてもバチ当たんないんじゃないの?」
「………」
アイチは頷くことも忘れて、Aの姿を思い出していた。
あれだけの濃い時間を一緒に過ごした筈なのに、ずっと隣に居てくれたと頭では分かっているのに……思い出されるのは別れ際の寂しそうな笑顔だけだった。
それでいいとはとても思えない。
そっとポケットの中の学生手帳に手を伸ばしかけて、止まった。
ブラスターブレードはもうデッキの中に居る事を思い出して、ほんの少しだけ心許ない気持ちになった。
...
すまない…店長が終始空気ですまない…。
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作者名:うすしお | 作成日時:2019年6月20日 2時