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そう思ったのに。
そう、自分で納得したと思ったのに。
私はあの日から佐久間さんがいるショップに行けなくなった。
もちろん推し活はしている。
ちょっと遠いけど、2番目に行きやすいショップの方に行って推しをゲットしている。
佐久間さんに会いたいとは思うけど、またカレンさんと笑い合っているところを目撃してしまったら、今度こそ耐えきれない気がして、行けずにいる。
今日は金曜日、前までならウキウキで佐久間さんに会いに行っていたけど、佐久間さんのいない別の店舗を目指す。
この店舗に行くのも慣れてきたなと思いながら電車に揺られていると、知った声に呼ばれた。
M「Aちゃん?」
声の方を向くと、佐久間さんと同じショップで働いている、佐久間さんの先輩の宮田さんがいた。
「宮田さん…。」
M「久しぶりだね。最近金曜日に来なくなったよね?」
「あ…はい…。」
M「仕事忙しいのかなって佐久間と言ってたんだけど、もしかして…別店舗の近くに引っ越した?」
いやいや、と否定するとそっかそっかと佐久間さんとはまた違った優しい笑顔で笑う宮田さん。
M「佐久間がね、凄く寂しがっててさ。嫌われることしたかな?とか体調崩してないかな?とか毎日うるさいくらい俺に聞いてくんの、俺に聞いてもしょうがないのにね。」
ははは、と笑いながら宮田さんは続ける。
M「Aちゃんが元気そうでよかった。また気が向いたら俺たちのいる店舗に来てね。」
今日はあっちの店舗でも良いけど、と言う宮田さんに苦笑いしか返せなかった。
違う店舗に行っているのがバレてる気まずさからだ。
それにしても、寂しがってたとか、毎日気にしてくれてるみたいな話とか、そういう思わせぶりなことを言うのはやめてほしいと思った。
佐久間さんに会いたい気持ちも、佐久間さんのことが好きな気持ちもまた大きくなってしまったじゃないか。
私よりも何駅か先に降りていった宮田さんを見送って、大きめのため息を吐いた。
そして考える。
このままずっとモヤモヤしっぱなしで、佐久間さんに会えないのは辛い。
それならいっそ、はっきりと振られてしまえば真実も知れるし、場合によってはまた一番近いあの店舗に通える。
別店舗に着いた私は自分の推しのグッズをチェックする前に、佐久間さんが今一番好きだと言っていた嫁ちゃんのパッケージのチョコを手に取った。
このタイミングでバレンタインなんて、とてもちょうど良いじゃないか。
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作者名:柊李 | 作成日時:2023年2月13日 22時