患者さん（岩本照） ページ31
私と岩本さんの出会いは衝撃的だった。
看護師になって半年と少し、ナース服の上からカーディガンを羽織らないと肌寒くなってきた頃。
私は指導係の先輩と一緒に夜勤をしていた。
そこへ救急で運ばれてきたのが岩本さんだった。
交通事故。
岩本さんはバイクで相手は車だったらしい。
相手の信号無視が原因で起こった事故で、岩本さんは意識不明の重態だった。
すぐに緊急手術が行われ、岩本さんは一命を取り留めた。
フルフェイスのヘルメットをしっかりとかぶっていたことと、季節的に、厚着をしていたことが幸いして、内臓や脳は無事だった。
ただ、ダイレクトにぶつかって、飛ばされたことによる外傷はひどく、四肢は程度の差はあれど骨折。
そして意識もなかなか戻らなかった。
いろいろな数値は正常に戻り、後は意識の回復を待つだけとなり、私一人が岩本さんを担当することになった。
担当すると言っても、意識がないわけなのでやることは少ない。
毎朝決まった時間に窓のカーテンを開けに行き、様子を見る。
包帯やギプスを先生が変えてくれる時の補助をする。
本当にそれくらいしかやることがない。
つい最近、呼吸も安定してきて、呼吸器が外れた。
良い傾向ではあるけど、なぜ意識が戻らないのか、と先生も先輩も不思議だと言う。
そんなある日。
私がカーテンを開けに行った時のことだった。
「岩本さん、今日もいい天気ですよ。外は寒そうですけど…。」
私は意識がなくても聞こえていたらいいなと思って声をかけるようにしていたのでその日もいつも通りに声をかけた。
そして窓の外から岩本さんに視線を移すと、目元が少しピクッと動いた。
「え…岩本さん？岩本さん、聞こえますか？」
私がそう言うと、ゆっくりと瞼が開いた。
私はすぐにナースコールを押して報告した。
その後駆けつけてくれた先生の補助をしながら岩本さんの様子を見る。
こうして岩本さんは目を覚まし、回復への一歩を踏み出した。
外傷のみの額部分の包帯が取れ、ムチウチも治って首のギプスが取れ、四肢のギプスも徐々に大げさなものからマシになってきている。
もちろんすぐにここまで回復したわけではなく、季節はもうクリスマスも過ぎて年が明けた。
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作者名：柊李 | 作成日時：2023年2月13日 22時
