32話 いつも通り ページ30
.
戻ってきた黒木君が、やれやれといった笑みを浮かべる。
「つまり、今回も、いつも通りってことで」
ひたすら不思議に思う私の奥で、若武はションボリしていた。
「若武、まだ次があるよ」
小塚君が励ますように言った。
「慣れてきたよね、この結末。」
アーヤちゃんがそう言う。
「ん、違和感はないね。」
そうなんですか。
「せっかくここまでこぎつけたのに・・・警察になんか通報したら、何もかも水の泡だ。テレビは察に取材に言っちまうに決まってるじゃないか。最初に見つけたのは俺たちだぜ。それなのに・・・」
私はその話を聞いてて、なんとなくわかったような気がします。
「もしかして、これをテレビに持ち込もうとしてたんですか？それで、注目して欲しかったと。」
私の呟きにみんなが苦笑い。
「病名、若武病。」
病名・・・・
「いつも事件を解決して、テレビに持ち込もうとして、持ち込めてないよね。」
そうなんですか・・・
「これで良かったんだよ。」
しょんぼりしている若武君に黒木君がなだめるように肩を抱き寄せる。
「実行してたら、俺たちは電波法違反、不正アクセス禁止法違反だ。いくらエンタメ傾向の強いテレビだって、犯罪少年のお手柄インタビューを放映したりしないと思うよ。」
正論ですね。
「ちきしょうっ！誰だよ。パソコンに侵入してデータを抜き取ればいいって言った奴はよ。」
それに黒木君がため息をつく。
「若武。お前ねぇ、いい加減にしろよ。危険ドラッグを放置しておけば、多くの被害が出たはずだ。それを防げたんだからさ、それだけでいいって思えよ。満足するんだ。」
若武君はしょんぼりしながらも、癖のない髪の先が頰を打つほど首を強く振った。
「いーや、できねぇ！」
そうですかぁ・・・
なんか、駄々捏ねる姿がおかしくて少し笑ってしまう。
「若武君、まだ次がありますよ。」
私が言うと真っ黒でキラキラした目をこちらに向けてくる。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 36人がお気に入り
お気に入り作者に追加
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：デラ | 作成日時：2021年1月17日 8時
