7歩目 ページ9
場所はリビング。Aと王子様は向かい合わせに座った。所作なさげに瞳を彷徨わせるAとは違い、王子様はやはり笑顔だ。
「あの……話って?」
見つめられることに耐えられなくなったAが聞くと、王子様は首を傾げた。
「どうして逃げるのか聞きたくて。俺何かしたかな?」
それは貴方が輝く笑顔のハイスペックパーフェクトな王子様だからに決まってるでしょ!?話すことが一生ないと思ってたからだよ逆に他に何があると!?
なんて全力で突っ込みできる技量はAにはない。なので、
「あ、いや……逃げてるわけじゃ……」
と小さな声で言うことしか出来なかった。
ちらりと王子様を見ると、何か考えているのか少し険しい顔をしていた。その顔もイケメンとは何なのか。ずるい。
「……。あのさ、1つ話があるんだけど、いいかな?」
笑顔ではなく険しい顔のまま。驚きを感じながらもAは頷いた。
「母さんはさ、生物学上俺の父親の人に捨てられたんだよね」
いつもより低い声。それに、“生物学上”と言うのが引っ掛かる。あの笑顔の王子様が、顔全面に『嫌い』というオーラが出ていることにさらに驚いた。
「あの人は自分のことが大好きで堪らない人だった。自分にとって今後、家庭と仕事どっちが大事か天秤にかけて、俺と母さんはあっさり捨てられたんだ。母さんは女手一つで俺を育ててくれた。そんな母さんを、もう自由にしてあげたいんだ」
真剣にAのことを見つめる王子様。話を聞いているうちにAも王子様と目を合わせた。彼の言っていることは、自分が父に対して思っていることと全く同じだ。
「だからね、兄さん。あまり警戒しないでほしいんだ。俺が兄さんと仲良くなりたいのは母さんのためだから。兄さんだって智仁さんに幸せになってほしいでしょ?」
Aは大きく頷いた。それを見た王子様は満足そうに笑う。
「じゃあ、もう俺を見ても逃げないで。毎日少しでも話そう。仲良くなれば母さん達も気兼ねなく隣にいられると思うから」
それを聞いたAは心が温かくなるのを感じた。王子様も――――――――蒼も、大切な人のために自分に何ができるか考えていたからだ。
「分かった。じゃあ、その………よろしくね、蒼」
Aは微笑んでそう言った。その時、長い前髪が傾き隠れていた金の瞳が覗く。
それは宝石のように煌めいて、蒼の心を魅了した。
「綺麗………」
心から思って出た小さな呟きは、Aには聞こえていなかった。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時