35歩目 ページ38
徹底的に嫌いにさせる。まずはあの根暗を蒼より劣っていて底辺の存在であると再認識させる必要がある。同時に、蒼は麗のものだと誇示できるような方法、つまり。
「麗、どうしたの?こんなところに呼び出して」
放課後、蒼に連絡して来てもらったのは私たちのクラスがある階の奥の方の廊下。人気がなくて気づかれにくい。麗が呼び出しによく使っている場所だ。
「デートに行く前に言いたいことがあったの。もう少し待ってちょうだい」
あの根暗、私が呼び出したって言うのにまだ来ないのかしら、と麗は内心で毒づいていた。ここに呼び出したのは蒼だけではない。むしろAがこの廊下に来ることが重要だ。
蒼はわざわざ呼び出されるような案件があったかについて思い返す。今日、天宮桃華を睨んでいたことがバレて釘をさされるのだろうか。
呼吸だけ木霊する空間に、微かに足音がしたのを麗は聞き逃さなかった。来た。こんな奥に来るのは呼び出した奴だけだろう。
「キスして」
わざと大きい声で。今ここに来ているAにも聞こえるように。足音が止まった。
「私たち、恋人同士でしょう?だからキスして。貴方から言ってくれるの待ってたんじゃ、一生してくれなそうだもの」
それから蒼のネクタイを引っ張り耳元に口を近づける。
「バラされたくないんでしょ?」
この言葉1つで、蒼の体は硬直する。秘密を麗が持っている限り蒼は逆らえない。
「……分かった」
Aに嫌われたくない。キス1つで守られるなら、と蒼は麗の頬にそっと触れた。
顔を傾ける。これならAのいる位置からならキスしているように見えるだろう。パタパタと静かな足音。Aが逃げた音だ。なんて良い音なのだろう。
「―――――――ごめん、やっぱり出来ない」
吐息が触れる距離。もう少しで唇が触れるその寸前に、蒼は止めた。
「何故?」
「…………すみません」
言い訳はしない。それはもう、心から麗が嫌いだと言っているのと変わらない。
だが麗は機嫌が良い。Aを陥れることに成功したも同然だからだ。だから今日は、今日だけは許してやる。どうせ家に帰ったら蒼はAの反応で苦しむのだ。
「いいわ。さ、デートに行きましょう!」
「え……?」
絶対バラしてやる!と脅されるかと思っていた蒼は機嫌が良い反応に面食らった。
「何かしら?早くデートに行きましょうよ」
「あ、う、うん」
私よりもあんな根暗を優先するから悪いのよ?王子様。
精々悲しむがいいわ。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時