33歩目 ページ36
夜。いつも通り桐島麗と表面上だけのデートをして帰ってきた蒼は困った顔をしている兄と目があった。それでも兄は無理に綺麗な宝石を細める。
「おかえり、蒼」
「ただいま、兄さん」
いくら笑った顔が大好きだからってこんな無理した笑顔は見たくない。兄が作った美味しい夕食を食べながら蒼は静かなトーンで聞いた。
「何かあったの?」
食事をする手を止めたAは俯き頷いた。Aとしては、やはり言いたくない。また蒼が無理矢理笑う顔なんて見たくないからだ。
「本当は、言いたくないんだけど……今日、モモに『これ以上ちょっかいかけるとまた面倒くさいことになるよ』って言われて…。それを蒼に伝えといてって言ったんだ」
面倒くさいこと。つまりは桐島麗を使って更に負担をかけるという脅しだろうか。犯人は私だがこれ以上詮索してくるなと?冗談じゃない。詮索するに決まっている。
「話して、くれないの……?」
兄はポツリと言葉を溢した。蒼を見る金色の宝石はいつもより輝いている。その瞳が潤んでいるから。
「確かに僕に話してもどうにもならないし、頼りないかもしれないけど…………蒼が辛そうなのは、見たくないよ……?」
揺れる瞳と、小さな声。Aからしたらこの状況は仲間外れにされているようなものだ。蒼とモモだけ隠れた会話で話し合って、Aは何も分からない。それでもAは『何の話か気になるから』ではなく『蒼の辛そうな顔を見たくないから』何の話かを聞いた。
そんな些細な事でも、蒼は嬉しいのだ。兄の言葉の優しさに少しだけ笑い、蒼は机を越えてAの髪を撫でた。
「ごめんね、兄さん。全部が終わったらちゃんと話すから。今はまだ、話せない」
蒼だって本当は全てを話したい。だが桐島麗と付き合った理由にAが目立たないように、という事柄が入っていたことを話さないといけなくなる。Aが自分を責めて責任を感じてしまうのなんて目に見えて分かっていることだ。
だからまだ、Aには話さない。
「……そっか。分かった。じゃあ“全て”が早く終わるのを待ってるね」
モモのことを話して無理矢理笑ったのは蒼ではなく、Aだった。ああほら、だから兄は優しいんだ。話さないことを責めない。本当はこんな顔なんて、させたくないのに。
「ごめんね、ありがとう」
こんなに純粋で優しくて可愛い兄との時間を奪った桐島麗及び天宮桃華には、何か報復をしなければ。一先ず天宮桃華と兄を離すことを、蒼は心に決めたのだった。
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埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時