27歩目 ページ30
あの人に捨てられてから、母は前よりも働き始めた。朝、蒼が起きるよりも早く起きて仕事に出て、夜中に帰ってくる。起きてから帰っても母は家にはいなくてずっと1人。小学生にとってそれはかなりストレスになっていた。
愛されてないのかな?違うよ母さんは頑張ってるんだから俺も頑張らなきゃ。でも1人は寂しいよ?そんなの母さんだって我慢してるに決まってる。助けてくれる人はいないの?だって1人で出来るから大丈夫だよ。
そうやって心に蓋をして、暗示を掛けていた。大丈夫だと。我慢できると。
小学生の頃の蒼は今より全然暗かった。そんなに笑わなくて勉強ばかりするような子だった。でもある時に気づいたのだ。
笑えば、周りに人が来る。
人より容姿を褒められることは多かった。笑顔に釣られたのか周りにはいつも人が来るようになった。
分かっている。そんなものは上辺だけですぐに切り捨てられてしまうものだ。それでも嬉しかった。1人じゃないから。笑えばいい。その間だけは捨てられないし、1人にもならない。
「そうやって生きてきたんだ。俺のこの笑顔も、性格も、1人になるのが怖い臆病者の俺が作った表の性格なんだよ」
蒼は嗤った。苦しそうに、辛そうに。そして聞いた。
「幻滅した?こんなの東雲蒼じゃないって」
Aは泣きながら首を振った。涙はいつの間にか流れていて止まらない。
「しない、しないよ……!するわけない…!」
人は1人では生きていけない。昔から言われていることだ。誰かのぬくもりを求めるのは本能と同じことで、愛を感じて人は成長する。誰だって1人になるのは嫌だ。
金の瞳から涙を流すAに蒼はまた笑う。ただ、今度の笑顔は苦しそうではなかった。
「ほらね。兄さんは優しい。だから嫌いになれないし、ならないんだよ。昨日さ、兄さんが俺に言ったこと、覚えてる?」
Aは泣きながら昨日の出来事を思い出す。自分は何か重要なことを言っただろうか。
「覚えてない?抱きしめた時に言ったこと」
言われてAは思い出す。
『大丈夫だよ。蒼が望むなら、いつでもこうしてあげるから』
あの時そう言って、蒼のことを抱きしめた。
「あの言葉、すごい嬉しかったんだ。1人じゃないって言われている気がした。兄さんは気づいてないかもしれないけど、俺は兄さんからたくさんのものをもらってるんだよ」
ありがとう、と。蒼は涙を浮かべて微笑んだ。
1056人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
埋夜冬(プロフ) - 名無しさん» 読んでいただきありがとうございます!ありますよー!蒼くんの方が高いです!そうですねぇ、大体10センチくらい差があると思っていただければ! (2022年3月19日 7時) (レス) id: 19b82d3da7 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - 身長差とかってあるんですかね (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
名無し - お伺いしたいことがあるんですが (2022年3月19日 3時) (レス) id: 39136fade0 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 古紗雪さん» 待っててくださりありがとうございます!更新頑張りますね!もうガン見しててください(笑) (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 龍晴さん» そろそろ続編にいきますよ!そこで完結です!夢主くんと蒼くんはどうなるのか!?麗は成敗出来るのか!?モモの正体は!?乞うご期待ですよ! (2019年2月28日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:埋夜冬 | 作成日時:2018年12月28日 1時