第29話 ページ31
優しく髪を撫でる手が頬にかかる。あたたかな体温が愛しくて、すり、と顔を寄せた。
もう、我慢しなくてもいいんだ。サクヤが居なくならないと言ってくれたなら大丈夫。傍にいたいと願っていいし、サクヤは傍にいてくれる。それはもう飛びつきたいくらい嬉しかった。もうすでに抱きしめられているが。
｢もう、可愛いことばかりするんだから｣
微笑みを浮かべているサクヤは、今日も宇宙一綺麗だ。その綺麗な顔が、ゆっくりと近づいてきた。
あ･･･、と思い目を閉じる。こんなときどうしたらいいのか分からないが、とりあえず目を閉じるのがいいとドラマから教わった。
チュッと短い音。
｢･･････え？｣
キスをされたのは唇ではなく、額だった。どうしてと思う反面、キスをされたのは初めてなので好きな人が初めてで良かったと喜ぶ心が混在している。なんだこの気持ちは。どうしたらいい？
｢Aに好きだと言っておいて、自分は何も話さないなんて詐欺みたいじゃないか。だからココには、俺の秘密を全部話したらするね。それまで取っておく｣
親指でAの下唇をなぞったサクヤは淡く微笑んだ。ぶわわっと顔に熱が溜まるのが分かる。心を満たしている感情は"期待"だ。サクヤの秘密も知れて、キスもしてくれるという。嬉しい。
｢A、あの家に帰って『ただいま』って行ってもいいかな？｣
帰ってきてくれるのか、あの家に。今日も明日もその先も、自分をあたたかく迎えてくれんだ。
涙を流すくらい幸せで、Aは何度も頷いた。
｢うんっ、うん･･･！！帰ろう、俺たちの家だから｣
サクヤに抱きついて、服を涙で濡らす。愛しい人。俺は、大切な人を、大切にしてもいい。サクヤなら大丈夫。
サクヤのことをたくさん聞いて、好きな事とか全部教えてもらおう。料理も手伝って、終わったら映画を観よう。休日は外に出て、デートをしよう。やりたい事がたくさんある。
人を好きになるってすごいな。いくらでも活力が湧いてくる。世界に色が付いたみたいに、キラキラして見える。サクヤも、サクヤの世界がこう見えているといいな。
｢帰ろう｣
手を繋いで帰り道を歩こうとした。
道に車が止まる。ライトが眩しくて、視界を狭めた。
｢――――こんなところにいたのか｣
車のドアが開くと同時に渋い声がした。サクヤの体が強ばったのが分かる。何、と聞く間もなくサクヤがAを後ろに隠した。
｢今更何の用ですか―――――――――父さん｣
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 82人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
*-七海-*@めぐ民 - う〜ん…泣ける！もう、今我情緒不安定だからww涙めっちゃ出るんやけどww (2020年8月25日 21時) (
レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
*-七海-*@めぐ民 - 埋夜冬さん» なりましょう！(2人は我らが見てるって事を知らないのだな…) (2020年8月11日 23時) (レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - *-七海-*@めぐ民さん» よし！2人で木になりましょう！！！ (2020年8月9日 22時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
*-七海-*@めぐ民 - 埋夜冬さん» wwwじゃあ、我はその木の枝役に立候補します！！ww (2020年8月9日 22時) (レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - *-七海-*@めぐ民さん» でしょう！？私はめちゃくちゃイケメンな相手にやってるのを見る木の葉役に立候補します！！！ (2020年8月9日 13時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：埋夜冬
| 作成日時：2020年6月28日 22時
