第37話 ページ39
服がどんどん濡れていく感覚がある。きっとまだ涙を零しているのだろう。このままだと脱水症状でも起きそうだ。
｢A、人の感情を全部理解することは難しいんだ。共有したくない思いだってある。その事でAが悩む必要なんてないよ。Aに知られるのが嫌で、わざと隠していた。俺は、過去の俺が嫌いだからね。そういう部分を見せなくなかったんだ｣
咲夜の言いたいことは何となくわかる。何か1つ知るだけで相手の態度が大きく変わることがあるのだ。Aも今まで不幸体質のせいで何度も経験してきた。
咲夜も同じで、傷ついている心も貼り付けている笑顔が上辺だけだと言うことも、Aに知られたくなかった。態度を変えて欲しくなかったから。
｢でも、おれ、どんな咲夜でも好きだよ･･･？｣
顔を上げたAが咲夜を見つめる。まだポロポロと涙が零れているが、先程より意志を持った瞳だ。
｢葉山さんがお父さんなのは、驚いたけど、それでも、咲夜は咲夜だから｣
ね、そんな泣きそうな顔をしないで。
後ろで服を握っていたはずのAの手は前に来て咲夜を撫でる。びっくりして沈んでいた気持ちが一気に変わった。
7歳年下に頭を撫でられるのは、不思議と恥ずかしくはなかった。好きだからかな、嬉しいな。
｢A｣
呼ばれて見つめ合う。茶色の優しい瞳が近付いてきて、咲夜がしたいことが分かってしまった。
キス、されるんだ――――――。
Aは目を閉じる。
少し緊張したのか、まだ背中に残っている片方の手に力がこもったのを感じた。咲夜はその感触に微笑んで、ふにふにしていそうなAの唇と自身のそれを合わせた。
本当は、嬉しい衝動のままもっと熱烈なキスをしたい。でもAのためにも我慢。これからずっと隣にいて俺の愛で溶かしてから、ゆっくり仕上げよう。俺は大人。年上の大人は余裕があるのだ。
名残惜しそうに唇を離して、額同士をくっつけた。
｢改めて言わせて。好きだよ、A。愛してる。それから、俺を好きになってくれてありがとう｣
｢俺も愛してる。これからも、ずっと、よろしくね｣
照れ笑いを浮かべるAが可愛くて、咲夜はまた触れるだけのキスを送った。
今度はバンドのメンバーにも紹介したい。彼らには迷惑をかけてしまったから。
それから、Aの家族のお墓参りにも行きたい。
それから、それから･･････。
Aと一緒にやっていきたいことがたくさんだ。
その日の夜はお互いを抱きしめて寝た。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 82人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
*-七海-*@めぐ民 - う〜ん…泣ける！もう、今我情緒不安定だからww涙めっちゃ出るんやけどww (2020年8月25日 21時) (
レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
*-七海-*@めぐ民 - 埋夜冬さん» なりましょう！(2人は我らが見てるって事を知らないのだな…) (2020年8月11日 23時) (レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - *-七海-*@めぐ民さん» よし！2人で木になりましょう！！！ (2020年8月9日 22時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
*-七海-*@めぐ民 - 埋夜冬さん» wwwじゃあ、我はその木の枝役に立候補します！！ww (2020年8月9日 22時) (レス) id: cc0b3d41a2 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - *-七海-*@めぐ民さん» でしょう！？私はめちゃくちゃイケメンな相手にやってるのを見る木の葉役に立候補します！！！ (2020年8月9日 13時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：埋夜冬
| 作成日時：2020年6月28日 22時
