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きっと湊はこれからもいい小説がたくさん書けるだろう。父とのわだかまりが無くなったおかげで、とてもいい顔で笑うようになった。出会った頃はそんなに笑わなかった人だったが、笑うようになると本当に絵画から抜け出してきたかのような美人だ。ずるい。
とにかく、愛川に何があったのかを早く伝えに行きたい。今のAと同じように喜んでくれるだろう。
と、思って出社したはずなのに。
「………」
何故!どうして!俺は今嘉川先生といるのかなぁ!?いつも通り出社したはずなのに!!
遡ること数分前。出版社に着くとちょうど嘉川が出てきたところだった。おはようございます、と挨拶したらニッコリ笑った嘉川は手を掴んで言ったのだ。「うん、おはよう。それじゃあ行こうか。今愛川さんや社長に許可をもらったところだよ」。そして連れてこられたのは前と同じカフェ。多分許可ってのは連れ出すための許可だ。
社内に入るという選択肢をあらかじめ潰しておくスタイルなのか。さすが巨匠。
となる具合にAは混乱していた。
「あ、あの……」
「ん?」
おしゃれで落ち着いた雰囲気のカフェにブラックコーヒーを片手に持つ嘉川はとても似合う。雑誌に載っていそうだ。そんな嘉川と、たかが新人編集者の自分がこうやって共にいるだなんておこがましい。何なんだこの状況。
「嘉川先生とお茶出来ることはこの上なく嬉しいのですが……何故連れてこられたのでしょうか……?」
自分は何かしてしまったのかもしれない。だから呼び出してお説教?それとも何か別のことか?
「ああ、すまない。理由を話していなかったね。前回一緒にここに来たことがあっただろう。その時に私は君のことをとても気に入ってね。是非ともまた話したいと思ったんだよ。今日は重要な仕事がないと聞いたから、どうしても話したくなってしまってね。駄目だったかい?」
眉を下げて笑うから、Aの心で罪悪感が積もっていく。そもそも大先生相手に嘘でも「駄目ですね」なんて言えるわけがない。
「いえ全然!俺でいいんでしたらいつでも呼んでください!」
慌ててそう言うと、嘉川の下がっていた眉が嬉しそうに上がった。
「本当かい?それは良かった」
Aと嘉川は楽しく談笑を始めた。
今日取ったという許可。本当は、今後もAをこうして連れ出すこと全体への許可なのだが、そのことをAは知らない。
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!返信遅れてごめんなさい!キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω`*) (2019年12月14日 13時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜!!この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです!!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません!ドキドキしていただけたなら作者も満足です!次回作もよろしくお願いします! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません!可愛く書けていたなら良かったです!次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね!この作品を読んでいただきありがとうございました! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました!完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年8月10日 22時