55冊目 ページ16
湊が家を飛び出す数分前。Aは嘉川といつものカフェへ来ていた。他愛ない会話は楽しいが、自分はこんなに仕事をほったらかしにしていいのだろうか。不安だ。
「今日は、仕事の話をするために誘ったんだ」
いつもの会話のトーンではない真剣な声音に、Aの背筋はピンと張る。
「私は今日、自分の編集者をクビにしたんだ」
「え!?」
あまりに驚きの内容に目を瞬かせる。
仕事の話とはもしや、クビということか!?嘉川とばかり話して仕事をしない無能は要らないと!?
短い間でそこまで考えたAはサーッと顔が青ざめる。何とかして続けられるように愛川編集長に頼まなければ。
「私はね、君に作品を編集してもらいたいんだ」
「……え?」
言われていることが凄すぎて、思考回路がショートした。まるで熱烈な告白だ。まさかあの有名作家様ご本人から作品の編集を頼まれるなんて思ってもみなかった。
「で、ですが俺は湊先生の専属編集者なので、今ここで即決定はできません」
「その件だが」
嘉川はAを見て、告げた。
「もし君から私の作品を編集すると言ってくれたら、私から九条湊先生の本を薦めてもいい」
つまり、ファンが増えるきっかけになる。
嘉川は湊よりも前から作家としてデビューしている。つまり嘉川と同じくらいの歳をした、もしくはそれ以上の年齢のファンが多く、さらに言えばそういった人たちは湊の小説を読んでいない。嘉川から紹介してもらうことでもっと広い世代に読んでもらえるのだ。
「どうだろう。君にとっても悪くない条件だと思うのだがね。自分で言うのも何だが、私はそれなりに有名な作家だと思っている。君に手伝ってもらいたいこともあるしね」
「手伝ってもらいたいこと、ですか?」
首を傾げると嘉川は声を潜めた。
「今度私もBLというものを書いてみたくなってね。だがBLには艶かしいシーンが必要だろう。そういったことには疎くてね。力を貸してほしい。そうだな、短く言えば―――――――――君のハジメテがほしい」
しばらく時間が空いて意味を理解したAはぶわわっと顔を赤くした。
「え、なっ……!?」
「だが君がOKしてくれれば九条さんはもっと有名になれるよ」
甘く誘うような声。Aと交渉するときに打撃を与える言葉は湊の名だ。
嘉川は手をAの方に出した。
「さあ、決めるのは君だ」
湊の小説が有名になってほしいと願う。湊の何もかもが好きだから。
手を取ろうと、手を伸ばした。
―――――――――「Aッ!!!」
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埋夜冬(プロフ) - 白澤 晴夜さん» ありがとうございます!返信遅れてごめんなさい!キュンキュン出来ていたなら良かったです(*´ω`*) (2019年12月14日 13時) (レス) id: 87a5a46f37 (このIDを非表示/違反報告)
白澤 晴夜(プロフ) - 完結おめでとうございます!!もう最後までキュンキュンしながら読ませて頂きました〜!!この2人には、これからも永遠に幸せでいて欲しいです!!これからも頑張ってください!応援してます! (2019年12月13日 22時) (レス) id: 5742d2c832 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゼロさん» 返信遅くなりすみません!ドキドキしていただけたなら作者も満足です!次回作もよろしくお願いします! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 唳桜さん» 返信遅くなりすみません!可愛く書けていたなら良かったです!次回作も作ったのでぜひ読んでみてくださいね!この作品を読んでいただきありがとうございました! (2019年12月7日 10時) (レス) id: b51b60f8c3 (このIDを非表示/違反報告)
ゼロ - とても面白かったです。僕自身とても好きなジャンルで読んでてとてもドキドキしました!完結おめでとうございます。これからも応援しています。頑張って下さい(^▽^)/ (2019年12月1日 11時) (レス) id: aaae856515 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年8月10日 22時