48歩目 ページ8
家に帰り夕食を食べる。今日はAが作ってくれたオムレツだ。切るととろとろの卵が出てくる、正にお店の味だった。
家の掃除などは大体終わり、あとはお風呂が沸くのを待つだけ。
Aは蒼といるときの沈黙が嫌いだ。話していれば思い出さないのに、家に帰って二人きりになるとあの時のキスが思い出されてしまうから。あの時何故蒼はキスをしたのだろう、いやそれよりもあれはファーストキスだったな、というか何でキスしたのか知りたいけど蒸し返したくないしそもそも恥ずかしい！と頭の中で勝手に脳内会議が始まる。そうなるとあの時のことがリプレイされて顔が赤くなる。どうか蒼に気づかれませんように。
「兄さん、なんかしたいことない？」
「あ、え？したいこと……？」
大丈夫、バレてない。これは脳内会議を止めるいいチャンスだ。Aはしたいことを巡らせた。
「あ、ピアノ」
真っ先に思い付いたのはピアノだった。
「ピアノ？」
蒼は土曜日にピアノ教室に通っている。
「うん。蒼がピアノ弾いてるとこまだ見たことないから、見てみたい」
確かに、Aの前では弾いたかとがなかったな、と蒼も思う。最近、母と智仁さんから電子ピアノをプレゼントされたばかりだ。鍵盤が重たくとても良い音が出る。
「じゃあ、ピアノ弾くね」
他ならぬAの頼みとあれば蒼は何でも叶えるつもりだ。蒼は電子ピアノを準備し、鍵盤に両手を添える。
「リクエストある？」
「ん〜、蒼が得意な曲がいい」
「わかった」
ならばJupiterだ。蒼がピアノを習い初めての発表会で、母に褒められた曲。褒められたのが嬉しくて発表会後もずっと練習を重ねた。
鍵盤を押す。少し低く心地よい音。蒼なりにちょっとしたアレンジを加え、音を響かせる。
音が終わる。手を鍵盤から離し兄を見ると、穏やかな顔で、穏やかな寝息を立てていた。
心地よい音と、麗による精神的ストレスが出てきたのだろう。蒼は微笑んでブランケットを掛ける。
「……ねぇ、A」
蒼がAと呼ぶのは、兄以上の存在になってほしいから。
「Aが一言、辛いとか、助けてって言えば俺はどんなことをしてでもAを助けるよ」
そっとズボンの裾を捲る。間接の部分が痣になっているのを見て、蒼は顔をしかめた。
「いつになったら、俺を頼ってくれるの？」
Aが何も言わないのは、蒼に迷惑を掛けたくないと思っているからだ。Aは優しいから。
でももっと頼ってほしい。
蒼は悲しみを混ぜた微笑みでAの髪を優しく撫でた。
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埋夜冬(プロフ) - ｳｪｰｲさん» 喜んでいただけているご様子ですね！嬉しいです！ (2021年7月10日 22時) (
レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ｳｪｰｲ - (*＾▽＾*) (2021年7月10日 22時) (レス) id: 600bb56534 (このIDを非表示/違反報告)
トマトジュース - アギャァァァァァァ！！無理尊い、辛い、泣けるンゴ、吐血するンゴ、つかしたんご (2019年9月19日 22時) (レス) id: b4078055ec (このIDを非表示/違反報告)
カナ - （＾∇＾） (2019年7月13日 14時) (レス) id: 99b9fc8fa9 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - カナさん» ありがとうございます！もうすぐ終わりますのでお楽しみに☆ (2019年7月12日 7時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：埋夜冬
| 作者ホームページ：http://uratuku/sounewawawa1
作成日時：2019年3月5日 23時
