兎26匹 ページ29
次の日。彩兎は最終作戦を実行するための準備をしていた。と言っても、準備は飲み物を用意するだけだが。
クラスに行くようになったAには昨日、ちゃんと言ってある。
「明日またこのくらいの時間に保健室に来てください。これで最後にしましょう」と。
あの時Aは絶望して顔をしていた。決して自惚れではない。何故ならAは息を飲んで、ただ頷いたから。
きっと彼は“何が最後なのか”分かっていないのだろう。今はそれでいい。
「楽しみですねぇ、天崎くん」
これから放課後に起こることに、彩兎は笑みを隠せない。これで、やっと―――――。
保健教諭としての仕事を終え、放課後になり生徒もほぼ帰ったであろう時間。いよいよこの時が来た。
控えめにドアが開く。そこにいたのはAだった。いつもよりも断然オーラが暗い。当たり前だ。彼は今日で、もう保健室に来れないと思っているのだから。
そしてその考えはあながち間違いではない。だから彩兎は否定しない。
「学校お疲れ様です、天崎くん。座ってください。天崎くんの最近のことを知りたいです」
「……あぁ」
彩兎はテンションが高かった。これで、やっと、天崎Aが手にはいる。
「飲み物は紅茶でいいですか?」
「……珍しいとね。紅茶なんて」
「ええ。だって、ここに来て話せるのも、今日で最後でしょう?」
ああ、今の言葉は意地悪すぎたな。Aの顔を見て、彩兎は心の中で反省する。
どうぞ、と紅茶を差し出して、彩兎はAの隣に座った。それからクラスでの話を聞く。Aはポツポツとクラスでの話をし出した。勉強のこと、クラスメイトのこと、先生のこと。それなりに過ごしているようだ。
「……嬉しいと?」
話が一段落したあたりで、Aが聞いた。
「俺がここに行かんようになるの、そげん嬉しいと!?」
それは、Aの心の叫びだった。
「あんた今日はテンション高くて!こげな……紅茶まで用意するくらい……俺と離れるの、嬉しいと?」
Aは空になった自分のカップを見つめた。駄目だ。泣くな。言い聞かせて唇を噛む。
「俺は!……俺は、悲しかよ……。もうここであんたと話せなくなるんは、悲し……か…」
あれ?
体に力が入らなくなったAはソファーに倒れ込む。瞼が重い。ピクリとも自分を動かせない。
「さすが即効性。効き目が早いですね」
そんな呟きもAには聞こえていない。
「おやすみなさい、天崎くん」
うっとりと、彩兎はAを撫でた。
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埋夜冬(プロフ) - 。#vllさん» そうなんですか!?これの発案者は作者のお友達なんですけど、その子がどうしても兎を名前に入れたいって言ってました。ヤンデレ好きなので関係しているかもしれないですね!最後までお読みくださりありがとうございました! (2019年10月25日 23時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
。#vll - 兎系の人はやんでれと聞いたことがあります、彩兎くんの名前と関係してそー。と勝手に考えていました。とても面白い作品でした。♪ヽ(´▽`)/ (2019年10月25日 12時) (レス) id: 01ebef5845 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 紫園さん» どうもありがとうございます!二人とも尊く書けたのからよかったです!方言は私も書いてて楽しかったです!この作品を好きになっていただきありがとうございました! (2019年5月1日 18時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
紫園(プロフ) - 最後までお疲れ様でした!本当に尊い2人です(´;ω;`)方言とかも最高でした! (2019年4月28日 16時) (レス) id: a3fbe17e50 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 李守文さん» 嬉しい限りですありがとうございます!!!私も博多弁書いてて楽しかったです!そして同じように日常で使いました(笑) 今後も作品を出していきますのでどうぞよろしくお願いします!この作品を好きにいただいてありがとうございました♪ (2019年4月27日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年1月26日 16時