兎14匹 ページ17
彩兎は怖がっていた。左腕に巻かれた包帯を見た瞬間、どうしようという思いが胸を支配した。どうしようというのは、Aが怪我をしたことではない。もし、あの包帯がAが自分で包帯を巻いたとしたら。そうなったら彩兎は――――――――
「これは家で切れたたい。段ボールで擦っちゃってな。結構血が出たとよ。だから自分で手当てしたばい」
予想していた言葉だ。彩兎は震える唇を開いた。
「……な、何故ですか?」
その質問にAは目を逸らした。照れている
ようだ。彩兎の変化には気付いていない。
「まぁその……あんたも大変と、あんま迷惑かけんようにしようと思ったばい」
ああ、やはり。
つまり彩兎は――――――要らない存在になってしまう。
Aが自分で出来るようになってしまったらここへは来なくなるかもしれない、と彩兎は恐怖に駆られたのだ。もちろんAは現在も彩兎に恋をしているので来なくなるなんて有り得ないが、そんなこと彩兎には知る由もない。
どうしかしなければ。Aがここに来なくなってしまう前に何とか引き留めなければ。
「どうかしたと?」
「―――です」
「ん?」
彩兎は下を向いた状態のままAの胸元にトンと額を付ける。
「貴方の傷を手当てするのは私です。貴方が自分で出来るようになってしまったら、私は貴方に何も出来なくなってしまいます。必要と、されなくなる」
必要とされないその悲しみと苦しみはAも幼少気から理解している。いきなり彩兎が言った言葉にAは首を横に振った。
「必要たい。あんたがいないと俺はここに来んよ。勉強もやらんし、喧嘩も続けてたと思うばい。この包帯も適当に巻いた。あんたはこれからも必要とよ?この学校にも………俺にも」
家族よりも、Aを正してくれる存在。家族よりも、Aを大切にしてくれる存在。Aには今後も彩兎が必要だ。
Aは同時にもうひとつ分かったことがある。彩兎には自分がいないと生きていけないことだ。
「本当ですか?これからは家での怪我も、私に手当てさせてくれますか?」
「当たり前たい」
何だか、大きな子供みたいだ。とAは感じた。実際は子供より質が悪いのだが。
彩兎にとってAはいないといけない大切な存在だ。いつまでもいてもらうためには手元に閉じ込めていないといけない。
どうしたら、と彩兎は泣きそうな顔の裏で考えた。
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埋夜冬(プロフ) - 。#vllさん» そうなんですか!?これの発案者は作者のお友達なんですけど、その子がどうしても兎を名前に入れたいって言ってました。ヤンデレ好きなので関係しているかもしれないですね!最後までお読みくださりありがとうございました! (2019年10月25日 23時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
。#vll - 兎系の人はやんでれと聞いたことがあります、彩兎くんの名前と関係してそー。と勝手に考えていました。とても面白い作品でした。♪ヽ(´▽`)/ (2019年10月25日 12時) (レス) id: 01ebef5845 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 紫園さん» どうもありがとうございます!二人とも尊く書けたのからよかったです!方言は私も書いてて楽しかったです!この作品を好きになっていただきありがとうございました! (2019年5月1日 18時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
紫園(プロフ) - 最後までお疲れ様でした!本当に尊い2人です(´;ω;`)方言とかも最高でした! (2019年4月28日 16時) (レス) id: a3fbe17e50 (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - 李守文さん» 嬉しい限りですありがとうございます!!!私も博多弁書いてて楽しかったです!そして同じように日常で使いました(笑) 今後も作品を出していきますのでどうぞよろしくお願いします!この作品を好きにいただいてありがとうございました♪ (2019年4月27日 22時) (レス) id: 59284e1a90 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年1月26日 16時