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願い 36 ページ37

Aの手が伸びてきた。何をするかと思えば、髪を触られている感覚。驚く間もなく、グイッと引き寄せられた。

時がゆっくり流れているように感じた。唇が触れる。悪魔の紅い瞳には、Aの顔が映っている。キスされていると分かったのは引き寄せていたAの腕の力がなくなってからだ。

「お前の願いはとっくに叶ってるよ。愛してる、オルバ」

例えるなら陽だまりのような、花が咲きほこる春のような、悪魔にはあたたかすぎる笑みを浮かべたAはゆっくりと目を閉じた。
辺りは静かになった。呼吸の音も、心臓の音も、何も無くなった。

「………A………」

悪魔は手を伸ばす。もうその体には触れられない。

「お前は本当に……酷すぎるぞ…」

愛してると言ってくれた。悪魔の願いは叶った。触れることもできた。だが、

「愛してると言ってくれたお前がいなかったら、意味がないだろうが……ッ!」

なあ起きろよ。また愛してると言ってくれ。その声でお前が付けてくれた名を呼んでくれ。ずるいぞ、こんな時になって初めて名前を呼ぶだなんて。酷すぎる。置いてくなよ。俺を、一人にしないでくれ。

「俺は、誰でもなく、お前に愛されたい……!」

何度名前を呼んでも起きてくれなかった。抱きしめたいのに手もAの体を通り抜ける。心臓の音もない。本当に、死んでしまった。愛してると言ってくれたのに。また話すことも出来ない。

白くなっていくAの頬に水が落ちた。遅れて気付く。これは、涙だ。

「泣くのは、苦しいな……」

悪魔は泣いた。声を上げて、叫ぶように泣いた。子供のように泣いた。喉が枯れるまで泣いた。涙はAに零れて伝い床に跡をつくる。

ふとAの頬を撫でる自分の手が透けていることに気付いた。驚きはない。むしろ、ありがたかった。
ああ、自分は消えるのだ。でもそれでいいや。Aがもういないのだ。自分がいたって意味が無い。

だんだんと体が透ける。悪魔は、Aにキスをした。

「どうかAが生き返り、病気が完治していますように」

悪魔の願いを込めた涙は、Aの手のひらに落ちた。




「愛している」




心からの言葉を残した悪魔は、もういない。

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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時

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