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願い 29 ページ30

「――――忘れないでね」

そう言ったAの顔は笑っていた。目を細めて口角が上がっている、本当の笑顔だった。Aと過ごしてきた中で一番美しい笑顔を見た。

だが、何故かオルバは、泣きそうになった。

何故かAが消えてしまうのではないかと不安になる。あるはずのない心臓がドクドクと警報を鳴らしている気がする。
『忘れないで』?一体何を忘れるなと?この景色か。行き方をか。それとも今まで過ごした全てをか。

強めの風が吹いて花を揺らす。葉と花弁が舞ってどこかへ行った。暴れる髪を押さえたAは「そろそろ帰ろうかな」と立ち上がる。

嗚呼、本当に、風に攫われてしまいそうだ。
繋ぎ止めておきたくて腕を伸ばす。Aの手首を掴むはずだった手はすり抜けて何も掴めなかった。それが、悪魔にとっては何よりも辛かった。

どうして悪魔は、人に触れられないのだろう。
この弱く寂しい人間一人も抱きしめられないなんて、何のための体なんだ。

「悪魔、どうかしたの?」

「ここがAの大事な場所なら、俺も何か大事なことを言わなきゃフェアじゃないと思ってな。……聞いてくれるか?」

悪魔の瞳は真剣そのものだった。いつもみたいに茶化すことではなく、彼は本当に大事なことを伝えようとしているようだ。
Aは頷く。悪魔はふわふわと浮いて立つと紅い瞳でAを射抜く。

「悪魔の死についてだ」

それは、悪魔であるオルバの最大の弱点だ。Aが言葉を発しようとするのを目で止める。

「俺たち悪魔は祓われてもそれで死ぬことは無い。力が弱まるだけなんだ。だが俺たちも死ぬことはある」

悪魔は自分の瞳を指さした。

「涙を流すこと。それが俺たち(悪魔)の死を意味する」

人を(そそのか)し、理性が留めている欲望を表に出させて混沌を招く悪魔。悪魔は悪の存在で無ければいけない。その悪魔が誰かのために涙を流すこと。それは悪ではない。悪魔たちは涙を流すことによって浄化されてしまうのだ。

「浄化されるとき、何でも一つだけ願いが叶うと噂で聞いた。ま、それが本当かどうかは分からんがな」

最後はいつものようにおちゃらけた悪魔に雰囲気が戻った。

「これが俺の大事なことだ。Aも、今の話忘れるなよ?」

そんな大事なこと、忘れるわけないじゃないか。というか、そんなこと人間に教えても良かったのだろうか。

「帰ろう、陽が暮れるぞ」

「うん」

――――教えられるほど、信用してくれていると思っていいかな?

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ルティン - はい!応援しています!また読みに来ますね! (2021年8月3日 18時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ルティンさん» 嬉しい限りです!!この作品をこんなに好きになって下さりありがとうございます!これからもっと精進致しますのでよろしくお願いします! (2021年8月3日 16時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ルティン - この作品ほんとすごい!もう3回も読み返しています…!しかも期間を空けて!何度も読みたくなる、素晴らしい作品をありがとうございます!!これからも頑張ってくださいね!! (2021年8月3日 15時) (レス) id: bdebe086bb (このIDを非表示/違反報告)
埋夜冬(プロフ) - ゆきさん» うわぁぁ嬉しいお言葉ありがとうございます!!泣かせたかったので泣かせられたなら満足です(笑)最後までお読みくださりありがとうございました! (2020年7月11日 9時) (レス) id: f9a8d8c7d5 (このIDを非表示/違反報告)
ゆき(プロフ) - 一言いいですか?...神作者じゃないですか!?貴方様の小説最高すぎるんですよ?!思わず泣いちゃったじゃないですか!...以上、長文失礼致しました。 (2020年7月11日 9時) (レス) id: 1ca0293e4d (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:埋夜冬 | 作成日時:2019年12月7日 8時

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