あなたを口説きに来ました。

蝶第玖話 ページ9

「ブッ！！」

煉獄さんが、勢いよくお茶を吹き出し、千寿郎君と私は煉獄さんの周りや口元を拭く。

「これは恥ずかしいところを見せた！穴があったら入りたい！」

大丈夫です、煉獄さん、今日も素敵ですから。
吹き出すあなたもなんでも。

「Aもう一度言ってくれないか」
「え？あ…今日は蝶屋敷で働き…」
「もう一度！」
「今日は蝶屋敷で…」
「うむ！今日の俺は耳がおかしくなったようだ！」

千寿郎君と私は顔が青ざめる。

「大丈夫ですか！！兄上！！」
「病院…蝶屋敷に行って診てもらいましょう！？杏寿郎さん！！」
「杏寿郎…うるさいぞ、千寿郎もAも心配し過ぎだ」

煉獄パパは欠伸をしながら現れた。

「お義父さま！杏寿郎さんの耳が悪くなったようです！」
「父上！！兄上の耳が！」
「なんだって！！！？」

煉獄パパは一番大きな声を出した。


「杏寿郎！！すぐに診て貰え！！今すぐだ！！」
「杏寿郎さん！！行きましょう！蝶屋敷に！」
「兄上……！僕もついて行きます！！」

兄上Love同盟の者達の中にこれが嘘だと見抜く者はいなかった。


「うむ！これはやってしまった！！」

今度は煉獄さんが青ざめ、耳は悪くない、と言った。


「いや、信じられん！蝶屋敷で診てもらえ！」
「そうですね！お義父さま！」
「兄上！蝶屋敷に行きましょう！」


こうして、家族全員で蝶屋敷に向かうことになった。


＊＊＊


「深刻な表情をされていらっしゃいますが……どこにも問題は見当たりませんでしたよ」

しのぶちゃんが言うと、私を含めた、兄上Love同盟組は、良かった！と安心した。

「本当に良かったです！」

煉獄さんは心配を掛けてすまなかった！と謝り、みんなで抱き合い、励まし合って解散した。


「では、杏寿郎さん、今日はこのまま蝶屋敷で働くので」

煉獄さんに頭を下げて屋敷に入ろうとすると、腕を掴まれた。

「杏寿郎さん？」
「蝶屋敷で待っていてくれ。一緒に帰ろう」

煉獄さんはニコリと笑った。

「はいっ！」


煉獄さんを見送った後、しのぶちゃんが隣に現れてクスッと笑う。

「しのぶちゃん」
「煉獄さんの嘘には困りましたね」
「心配しましたが、本当に何もなくて安心しました！」

私が胸の辺りを押さえて、ホッとしている様子を見て、しのぶちゃんが目を細める。

「お二人はどうして＿＿＿」
「？」
「いえ…なんでもありません」

しのぶちゃんは笑った。

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