あなたを口説きに来ました。

口説き第参拾伍話 ページ35

蝶屋敷に来てから二週間が経った。
今日も蝶屋敷は明るい。

「ぎゃぁぁぁ！！いやぁぁぁ！飲みたくないぃぃ！！」


善逸君の素晴らしい高音が聞こえてくる。

とうとう彼らがやって来たのだ。
もうすぐ、煉獄さんと猗窩座さんとの決闘は近い。



「善逸君大丈夫！君なら飲めるよ」
「あぁぁぁ！！Aさぁぁあん！結婚してぇぇ！！」
「気持ちは嬉しいけど、ごめんなさい」

「いやぁぁぁ！！！」
「こら善逸！これで何回目だ！」

炭治郎君だ。
優しい炭治郎君。


「炭治郎君、調子はどう？」
「はい！最近は三人で柔軟やら、薬湯の掛け合いをしています！」
「そっか、頑張ってるね…」


優しく頭を撫でると炭治郎君は目を開いて驚くが、下を向いて静かになった。
善逸君は発狂してる。

まだこの子達はこんなにも若いのに、鬼と戦わなければならないなんて。
そして、彼らは煉獄さんの死を＿＿＿＿


「Aさん？」
「炭治郎君見てたら色々思い出しちゃって、ごめんね」


パッと手を離して、
急いでその場を後にした。


急いで外に飛び出して、誰もいない事を確認して、座り込む。


どうしよう。
どうやったら煉獄さんを救えるのだろう。
みんなにネタバレせずにどうやって伝えれば。


無惨に猗窩座さんを拘束しといてもらう？

いやいや、この間絶交とか言っちゃったし……



戦う？

いや、、絶対無理だ。

お館様に、柱を無限列車に集結させてもらう？

いやいや、そしたら、その日に煉獄さん以外の柱に助けてもらった人達が死んでしまう。



どうすれば





炭治郎君達が回復したら任務が始まる。

どうしよう。



「A」


大好きな声が聞こえて、顔を上げる。



「杏寿郎さん」
「会いたくて来てしまった」

すぐに抱き上げられて、抱きしめられる。



「杏寿郎さん…列車での任務があったら…行かないで…」

愛おしさと罪悪感が込み上げて、涙が止まらなくなってしまう。
私は今、列車に乗る予定の沢山の人達の命よりも、煉獄さんの命を選んでしまっているのだ。


「…なぜ？」
「だめ、行かないで…」
「俺のこの力は鬼を斬り人を守るためにある。だから、助けを求める声があれば行かねばならない」



…そうだ。煉獄さんはそういう人だ。
だから堪らなく愛おしく尊いのだ。

【老いることも死ぬことも】


私はギュッと目を閉じて、涙を拭いて、笑った。


「そうですよね。任務があれば、お気をつけて。私はずっと貴方の帰りを待っていますから」

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