口を噤む。 ページ30
「ははっ、そうか。そんな事があったのか！相変わらずだな過去の俺は」
エンマとぬらりひょんさんの言い争いについて話せば、エンマさんは懐かしむように目を細め、笑った。
「それで…他にも重要なことがあるんじゃないか？」
エンマさんはそう言って自然に私の髪に触れた。
「えっと、これはエンマさんのマドレーヌ、です」
「違う。マドレーヌは嬉しいが。あと敬語、取れてないぞ。A」
彼の顔がグッと近づく。鼻が触れそうだ。
固まる私を見て、エンマさんは笑い、ゆっくり離れる。
「俺に隠し事はできないぞ、特に過去の俺の事に関してはな」
エンマさんは分かっているようだったので、私は正直にエンマと想いを伝えあったことについて話した。
未来の本人に話すなんて奇妙でありながら、同時に少しドキドキしていた。
彼の細められた瞳が私を捕らえて離さない。
エンマさんの艶やかな雰囲気に私は飲み込まれたくなくて、目を逸らしたくなるのだ。
「俺と付き合っている、という事は言ってないんだな？」
「言ってないです」
「そうか、なら良かった」
エンマさんはニコリと笑っていつもの雰囲気に戻った。
「Aのマドレーヌが食べたい。いいか？」
「もちろんです」
ラッピングされた袋を渡すと、嬉しそうにしているエンマさん。
「Aの手作り…か…」
溢れる喜びを噛み締めるように言う彼に、私は少し吹き出してしまう。
「ん？」
「ふふ、やっぱりエンマさんはエンマなんだなぁって思ってしまって…」
笑う私を見て、エンマさんは私の肩を抱き寄せた。
「っ！？エンマさ、」
「想い人の手作りの菓子なんて嬉しくなるのは当然だろう？」
そう言うエンマさんの様子は堪らなく嬉しそうで、でもどこか寂しそうで。
「また作ります。もっともっと沢山作りますから。これが最後みたいな、そんな事ないですからね…？」
エンマさんは私を見てまた目を細めた。
愛おしそうな、甘い甘い瞳。
「A」
「は、はい…」
「もっと抱きしめても、いいか？」
マドレーヌを一度傍に置いたエンマさんはそう言った。
もっと抱きしめる、って、正面からしっかり抱きしめる感じなのだろうか。
今は肩を抱かれているのみだが。
もっと───
私は頷いて、腕を伸ばした。
すると彼は強く強く抱きしめる。
私の胸は高鳴って、その時のエンマさんの様子を見る事はできなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 64人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
岸 - yuiさん» yui様、好きと言っていただけて、こちらもきゅんきゅんしております( ´ ▽ ` )これから、もっとキュンキュンさせられるように頑張りますね！コメントありがとうございます(^^) (2022年8月4日 20時) (
レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
岸 - GHJさん» GHJ様、素敵なコメントをありがとうございます！返信が途方もなく遅くなってしまい、申し訳ございません…！これから再開していきますので、よろしくお願いします(*^^*) (2022年8月4日 20時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
岸 - 花音さん» 花音様、お返事が遅くなってしまい申し訳ございません。そう言っていただけて光栄です(^^)またぼちぼち再開していきますので、よろしくお願いします！ (2022年8月4日 20時) (レス) id: fa76bf1609 (このIDを非表示/違反報告)
yui - めっっっちゃ好きですこの話...凄いキュンキュンして、一人で悶えてます...... 執筆お疲れ様でした♪ (2022年1月22日 15時) (レス) @page20 id: 091807da6e (このIDを非表示/違反報告)
GHJ - 読んでいると楽しくなりすぎてもう全て読み終わっちゃいました＞＜続き楽しみにしてます！ (2021年12月5日 20時) (レス) @page20 id: 0fb369d062 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
