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「Aさん、こっちです」
『また曲がるの…?』
キシキシと床を鳴らす音に釣られるようにため息を吐き、文句を言いつつ蒙恬の後ろを歩く。
あの後、介億先生と呼ばれていた者があの場を手際良く収め、屋敷内は構造が分かりにくくなっているという理由で蒙恬に案内をしてもらっている最中なのだが…
『なんっでこんな…、
ぐねぐねぐねぐね迷路みたいな通路なの?
え、ここ本当に屋敷の中?実は何処か変なところに繋がってるんじゃないの?あの世とか』
そう、何を隠そうとんでもなく道がややこしい。
頭の中で道を覚え整理しながら歩いていることも理由のひとつではあると思うが、とにかく疲れる。
「この城は国内最高峰の軍事育成機関と呼ばれているので、刺客なども多いんですよ。
なのでAさんの泊宿はもっと奥です」
『…ふーん、
ひとつ聞いてもいい?』
「はい、なんなりと」
『“軍事育成機関”って?』
「……?!」
可愛らしい微笑みを崩すことなく話していた蒙恬だったが、わたしの質問で舌を噛んだかのように顔が歪む。
それはもう、こちらも驚く程に。
『…変なことを聞いた?
聞いたのならごめん』
「いえ、驚いてしまっただけです。
軍事と育成機関、両方の意味ですよね?」
『そう、ありがとう』
歪んだ顔を元の笑顔に戻した蒙恬。
「…軍事というのは、
戦争の策略を立てる戦争の指導者、といったところです」
この説明でわかりますか?と笑顔で言葉を添えながら、またもや通路を右へ左へと曲がっていく。
『うーん、殿みたいな人ってことかな』
「王騎将軍は別格ですよ、
矛を持たない王騎将軍って感じですかね」
矛を持たぬ殿を想像しても、馬に乗り戦場に赴き戦を操る殿しか想像が出来ない。
何よりあの化け物じみた強さが長所だというのに、それを無くすというのは…、悪戯が好きでデタラメな話ばかりする、ただのイカれたおじさんだ。
『…裸の王様みたいな感じね』
「伝わってるのか怪しいんですけど…」
またもや苦笑いの蒙恬を他所に、育成機関の質問を求める。
難しいなあ、と唸る蒙恬は少しの沈黙の後、「集団の学び舎みたいなものです」と話し始めた。
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作者名:your(ゆうあ) | 作成日時:2020年7月22日 22時