【キングダム】理由のないわたしたちは (ページ5)

今日:6 hit、昨日:1 hit、合計:11,271 hit

＊ページ5

『寵愛…？』

蒙恬へ説明するとしても、割愛しなければならない事が多い。わたしの身分を明かすのにはそれなりに準備がいる。

説明は不得意であるため、記憶を遡り、王騎軍に身を寄せた日のことを思い出し上手な言葉を探す。

ーー
ーーー

記憶を遡ること２年前、わたしは自らの使命を投げ出し追われていた。

朦朧とした意識の中で何人仲間を切ったのかは分からない。

幼い頃から叩き込まれていた剣術や身のこなしのおかげか、迷いもせずいつも通り刃を向けられた。

例え何百人切ることになろうが、あの人の首を自らが斬り落とすよりは何倍もマシだった。

“生”をも投げ出しかけ、意識を手放したのが最後の記憶だが、目を覚ませば傷には包帯を巻かれ、血で塗れていたわたしの身体は汚れを拭き取られた様な跡が。

ベッドに横たわる己を理解し、連れ戻されたのかと絶望に浸っている所に殿とその配下が現れた。

その際に今までの経緯、身分の全てを話した。わたしの国の“呪われた伝統”の全てを。

他言無用である話であったが、あの時のわたしはその分別が出来るほどの精神状態ではなかった。それと、この人になら話してもいい。そう感じさせる何かが王騎軍にはあった。

「ンフフフ、それでは、
わたし達と共に戦いましょう」

記憶は朧気であったが、“守ってやる”ではなく、“共に戦う”と肩を並べさせてくれたことが、何よりも嬉しかったことが心に残っている。

それからはあの人のお陰で手に入れた自由を、タイムリミットまで必死に生きていこうと決めた。

ーーー
ーー

この２年を思い返せば、王騎軍の手練れ達との演習。
戦の方法や戦い方を知っているのを良いことにゲームの相手にされたり、風呂に投げ込まれたこともある。

そんな王騎軍に絡まれ続けながら、少しずつ読み進めていた書物が底を尽きた時、知恵をつけたいと殿に相談したところ、ここを紹介されて今に至るわけだが。

『何者かは、言えない』

それは、殿との約束だから。
わたしの身分と国の掟は、絶対的に信頼出来ると殿が認めた者以外への他言を禁じる、というもの。

『寵愛とか…、そういうことは分からない。

わたしは、みんなと肩を並べて戦う力が欲しいからあそこに居る。それだけだよ』

答えになってるかな？と微笑み問い掛ければ、「想いは伝わりました、ありがとう」と笑ってくれる。

少し言葉が砕けたのは、心の壁が薄くなったということだろうか。