Scar

..27＊剛典side ページ28

土曜日。




俺は新幹線の切符を買って、改札口の手前でAと待ち合わせ。


＜一応、サングラスかマスクしてきてね＞と連絡した。


この文章を送るだけで緊張した。


やっぱり芸能人との恋なんて無理だって思われてしまうような気がして怖い。


それでもこの恋は大切にしたくて、そう送った。



待ち合わせの５分前にマスクをしてキャップをかぶったAが来た。


早く着きすぎないのは、俺に対する配慮だろう、と都合よく解釈する。


混雑する土曜日の朝、キャップにサングラスの俺に遠くからでも気付いて小さく手を振ってくれた、それだけで気持ちが高揚した。


遠くからでも気付いたのは、俺も一緒。





『ごめんなさい、待ちましたか？』


…敬語に戻ってる。


「ううん、行こ」





すぐに新幹線が来て、指定席に座る。


『あの、新幹線代』


「いや、いいよ」


『いえ、良くないです。払います』


強い口調でそう言われて、俺はしぶしぶお金を受け取った。


『ごめんなさい…お金のことだけはちゃんとしたいです』


彼女は肩に力を入れてうつむいていた。


「い、いやごめん、俺のほうこそ、ごめんね」


『はい…』


一秒も、時間無駄にしたくねえのに…何怖がらせてんだ、俺。


『…あ、ごめんなさい、敬語やめるね』


相変わらず肩に力を入れて、でも俺の目を見て彼女は言った。


「…私服、そんな感じなんだ」


『え、この間も見たでしょ？』


「あの時とは全然違くない？この間はおとなっぽかったけど、今日はカジュアルだね」


『…ださい？』


「超可愛い」


俺がそう言うと、黙ってうつむいた。


…あ、照れてる。やばい、可愛い。


緊張が、伝わる。

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