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｢スンチョルだけじゃなくて、ウォヌも他のみんなも同じものを見て、同じものを手にして、そうなったら、案外自分ってひとりじゃないらしいから。
もう自分の中からおじいちゃんがいなくなっても大丈夫とかそういうんじゃないけど、そう思えたから帰ろうって思った。怖くても何でも大丈夫だと思った」
もう全部ぜんぶスンチョルがいるから成り立つ人生になってるんだよ、とAが言う。
自分に送る言葉にしては、あまりにも大それたものに聞こえるけど、Aはそれに気づいているんだろうか。それを真正面から受け止めて、受け入れるほど、自分はAの力になれた覚えはないのに。
“お前のことが大切で、その分心配で心配で堪らない人がこの世にはいるんだよ”
＿＿…ああ、でも、そうだな。そうかも。
SC｢あのさA」
｢…うわ、なに」
SC｢俺もAのことが大切で、その分、心配で心配でどうしようもないよ」
掴んでいた手を離してそのまま頭を勢いよく撫でれば、やけに柔らかい髪が手に触れた。
目は髪の毛が入らないようにぎゅっと閉じられている。それを薄ら開けたときもAは何も言わなかった。
SC｢黙るとこじゃないだろ」
｢…いや、はっきり言われてびっくりしたから？」
SC｢お前から言ったくせに」
｢まあ、純粋な疑問だったから」
｢そもそもひとりだって思うようになったのスンチョルのせいかもしれない」
SC｢なんで？」
｢スンチョルがいるのが当たり前になったから、そういうのに弱くなったんだよ」
そんな言葉を残して、「また来るね」とお墓に手を振ったAが歩き出す。ついでに自分も取り残された。
寝れば治る。切り替えが早い。
そんな風に言われるAだけど、こんなときまで早いのか。
｢そうだ。スンチョラ」
SC｢…ん？」
｢花粉症じゃないよね？」
SC｢花粉？まあ、うん」
帰りの階段に足を掛ける少し前、Aがくるりと振り返る。
上着の裾が揺れて、吹いた風が周りの雑音を攫って、｢じゃあ、コスモス見て帰ろう」とそう言って笑ったAの声がはっきりと耳に届いた。
｢綺麗なんだよ。あそこのコスモス」
SC｢いや、でも漕ぐの俺じゃん」
｢あはは気づかれた」
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作者名：柊
| 作成日時：2023年1月29日 9時
