[wrwrd]青に溶ける (ページ49)

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「無理にでも聞けばよかったって、さっき思った。段々窶れてッても、割と狡(こす)い処あるし、言わへんのなら、無理に言わせたくなかった、大丈夫なんやないかって思って」

取られたままの手が、じんわりと熱を持って居る。

「間違いやった」

もう、言葉にしなくたっていいって位、彼の声には後悔が含まれて、悲しい程の怒りに似た感情が、其の眼に窺えてしまった。嗚呼、その感情は。

「僕の所為なら、寧ろ僕を頼って欲しかった。そうやなくても、何時も世話になって、そんな奴が困っとる時に、一寸も助けになれんのが、悔しいんよ、こっちは」

つらつら、並べたてられる言葉が。

漸く、理解した。

此の人の、こう言う処を、知らない訳じゃなくて、知って居て。

だと言うのに、……。

「……頼って、欲しかったんよ。前も言うたやん」

取って居た手を目線の高さ位まで上げて、手の甲に擦り寄る様に頬を当てる鬱様に、きゅ、と胸が締められると同時に、激しく困惑した。

どうかしてる。

嗚呼、疲れてるんだ、屹度。

「そりゃ無能やけどさ、屹度頼りになって見せるから。僕やって一応上司なんやから、部下の面倒位、手貸さん訳ないやん」

「こんな事、溜め込まんといてよ、もう……な？」

……こんな事を誰にでも言うのなら、そりゃあ誰だって彼に落ちるだろう。

之だから、もう。

「……心配、して下さったんですか」

「……そりゃあ、まあ」

ちょっと恥ずかしげに眼を逸らして、だけど手は離さないままで。お互い莫迦なんだ。

「……はい」

一寸微笑(わら)った。

よし、ッて、鬱様も笑って、手を離す。

「じゃ、仕事戻りますか」

「しゃあねえな～……」

歩き出す。心の底から、久し振りに微笑ったな、何て。

「……ありがとうございます」

「ン？」

「優しくしてくださって」

誰にでも好かれる……と迄は云わないが、誰かと誰かの間を取り持ったり、場を巧く和ませたり、人を気遣って、そう言う処が、或る人。

屑だと言われるから、そう言う事をする一面は、私が知らないだけなのかもしれない。

だけど、本当に優しい人だ。

屑じゃないって、そう言いたくなる、其の位。

「……も、……く……ちゃ……よ」

「え？」

何かを言った気がして、隣を見た。だけど、寧ろ彼は「ン？何？」といつものように返すだけだった。

＊＊

「誰にでも優しくする訳ちゃうよ」