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「御免なァ」
そう間延びした何時もの口調で、眼鏡の奥の深海の様な眼を細めた。形式的な謝罪は何処迄も空虚で、其れを裏付ける様に、彼の手には何の躊躇も無かった。
Yシャツの袖のボタンを手慣れた手つきで外す。そして、上着を含めた私の服の二つの袖を掴んで、ぐいっと捲った。
.
痕だ。強くロープで縛られていた、そんな痕。
一々包帯を貰いに行くのも面倒だったので、袖を引き延ばして隠していたのだ。
この一瞬で
「嘘が巧い訳でも無いんやから。気付かん訳ないよな」
「ま、当たり前だよなあ」
流石に顔が引き攣った。どんな観察眼をしたらそうなると言うのだろう。
「うちの補佐官そろそろ放したって」
「しゃあねえな。あ、済まん」
仕方ないと言いながら、私に謝るのだから、如何も変な感じだ。
『放してやれ』の言葉を受けてか、強く押付けて居た手が離れる。正直、縄で縛られていた時よりも、書記長の握力、腕力の方が総合的に滅茶苦茶痛かった。
半分無意識に、腕を少し擦り、手首を庇う様にして右手を左手首に寄せる。
本当に、何故気付かれたのだろう。大きな痛みがある訳でも無く、手首を使う事をした訳でも無い。だから、庇った覚えも無い。
だと言うのに彼らは一瞬で手首の異変に気付いた。
「小っちゃな痛みでもな、一寸は庇うモンやねん。そんな癖がある訳でも無いのに、やけに袖を気にして、引っ張ろうとしたりするんやから、まあ俺でも気付くわ」
私の疑問に気が付いてか、鬱様はそんな事を云って笑った。
「大先生」
「解っとるよ。……なあ、Aちゃん」
静かな声だ。
時々ひやりとさせられる、あの透徹した聡明な感覚の中に、今まで知り得なかった『何か』が、其の声に、その態度に、籠っている、そんな気がした。
「云いたくないならええかなって、ずっと黙っとったんよ。せやけど、もう、限界やわ」
無理にでも吐かせる、と、言外に語っている。
逃げられないのだろう。本能が、そう悟った。
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「誰にされたん、其れ。
其れと、」
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「何時から嫌がらせ、受けとったん？」
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かなと - 編集画面の関連キーワード入力の下をよく読みオリジナルフラグをお外し下さい違反です (2019年8月20日 18時) (
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作者名：遥彼方 | 作成日時：2019年8月20日 18時
