[wrwrd]青に溶ける (ページ43)

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「……珍しいやん、随分お寝坊さんやったんかな？」

「……面目次第もございません」

少しの厭味を含んだ言葉に、項垂れる。本当に、返す言葉も無かったからだ。

私の所為じゃないと言いたかったけど、根本を辿れば私の所為なのだろうか。此処に来て、この空気に晒され、何度溜息を呑み込んだことか。

まあ少なくとも、今の私に赦される事は、只頭を下げると言う事だけだと言う事である。

「……忘れとるかもしれんけど、此処俺の部屋やからな、大先生」

そんな私達を見かねたのか、書記長は呆れ声で声をかける。まあ普通に、面倒だから他所でやってくれと言う意味なのだろうが。

「ま、一寸赦してや、トン氏」

「……ま、言いたい事は判るけどな」

煙草を片手に薄っぺらい笑顔を浮かべる鬱様に、書記長は額に手を当て溜息を吐いた。何とも意味の掴めない会話に、私は首を傾げる他ない。

書記長は溜息を吐いた。そして、私を射抜かんばかりの視線で見つめる。背筋が固まる。

「A＝エルジュ」

「……はい」

次の言葉に、身を固くする。覚悟の上とはいえ、屹度耐えがたい苦痛なのだろう。

言葉は無く、書記長は、其の体格のいい体を一寸大儀そうに椅子から立ち上がらせた。

そして、＿＿＿

.

.

.

＿＿一歩。

目に映ったのは、暗いカーキの軍服の裾と、鮮やか過ぎる程の、真紅のマフラーの端が、ぶわりと揺れる処、

立った瞬間の無形、素手と言う事は、と、頭の中で様々な計算を埋め尽くすが、相手は書記長と言う事もあり、如何すればいいのかも判らず。

だんッ！！

激しい音と共に、壁に強く叩き付けられた。

「ッつ……」

背筋を強打して、思わず声が漏れると共に顔を歪めた。

何の情け容赦も無く……否、あの書記長が之位で済ましているのだから、手加減はしているのだろうが。

両腕を掴まれ、壁に押し当てられている。逃げないようにか、その長い脚が両足の間に挟まれている。完全に逃す気のない拘束に当惑した。

多少の制裁はあるだろう、と受け入れるつもりでいた。が、予想とは全く違うこの展開に、私の脳は混乱した儘だ。

じっと、透徹する様な赤い赤い瞳が、視線を逸らす事を赦さない様に眼を合わせる。其れだけで、体が硬直してしまう。

「あーあ―トン氏、其れやから童貞なんやで」

女の子にはもっと優しくせんと。

そう言いながらも、拘束を外すようには言わず、上司はゆらゆら此方に歩み寄って来た。