[wrwrd]青に溶ける (ページ34)

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某日、昼下がり。

この日にしてはどうも皮肉なほど、天は晴れ渡り、道行く人は汗の雫を地面に落としながら、自らの目的地のみを目指して、思い思いのスピードで歩いて行く。

じわじわと蝉が鳴いている。陽炎が揺れている。そんな、テンプレートの様な夏の街を、永遠にさえ思える昼下がりを、退屈に、私も目的地を目指して緩く歩みを進めている。

『墓参り』にしては余りに不遜な、ラフな格好と持参物で、私はあの場所へ来ていた。

お世話になった人達は矢張り少しずつ年老いていた。私も同じ時を重ねていると言うのに、何だか一人置いて行かれる様な気分なのは、私と言う人間自体に同一化の目線が加わって居るからなのだなあと思う。

お目当ての墓は奇麗にされて居て、手入れする人が居るんだろうと言う事はありありと窺えた。

小振りな向日葵を一輪。其れに、東の国からの酒。

其れ位が、君は好きだろう。

何てったって、そう言う奴なんだ、君は。

酒の封を開け、墓石にとくとく注いでいく。強いアルコールの香りが鼻をつんとついた。

「家族に会うた後にはなったけど、君にも逢いに来たよ」

何度も夢の中に記憶を重ねて会っている。

唯の虚妄に会ってみた処で、結局君は何処にも居ない事を知って居乍ら。

手を合わせる。此処に来ると、何も言えなくなる。何を言えば良いのか解らなくなる。

あの部屋で夢に浸り、現実に嘆息する時は特に、君に言いたい事がたくさん出て来る。其れこそ、何処から話せば良いのか判らない程、溢れる程にだ。

だと言うのにいざ此処に来てみれば、話したかった一切の事は鳴りを潜めて、唯、手を合わせて立ち尽くしてしまうだけだ。

形式の様に冥福を祈る。冥福なんてものをよく知らないまま。

「……じゃあね、又、一年後」

夏風が吹いている。向日葵の花が小さく揺れた。

態々来たんだし、此処に来ても墓参りを済ませてしまったらそそくさ帰ってしまうが、今日位は少し長居してみようか。

思い出に浸りながら、思い出の場所を歩いて回ってみよう。

行く先々で憶えちゃなかった事を思い出したり、変わってないなあと最早感心したり、そんな事をしてその日はすっかり潰れてしまった。