[wrwrd]青に溶ける (ページ31)

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其の言葉は呑み込みつつ、「何故そんな事を？」と率直な疑問をぶつけた。

「否、さ……余程やないと有休とらへんし、あんまり友達とかとも会ってへんみたいやから、圧迫感なんかなと思って」

訊いた当人は、首裏をそっと掻きながら眼を逸らした。

そう言えば昨日は、隈の事を指摘されたんだった。嗚呼、だからこんな事を訊くのか。

にしても、私の休日の事情まで何故……まあ、一応男女と言う事で部屋こそ離れているが、同じ城で住んでいるので、情報はある程度筒抜けなのだが。

「いえ、全くそんな事は」

仕事は確かに疲れるが、終わった時の充実感と達成感が、此処は一倍強い。総統閣下や幹部がそう言う人で構成されているのだろうか、「正当な結果には正当な評価を」下してくれる。事が多い。

社会に出ればそんな事は無いと、中枢に上がるまでは実感する事も多く、其の中で挫折もあったし、嫌いな人間は一時期本当に頭の隅々から排除しようと血迷った時期もあった。

才能がある訳でも無く此の性格も相まって燻って居た私を引き抜き、勿体無いまでの期待と評価と待遇を頂いている。そうしたのは紛れもない此の型破りの上層部である。

「外に出る事自体が、凄く好きな訳じゃなくて。仕事もまあ、大変ですがやりがいありますし、全てが楽しいと言えば嘘ですが、苦じゃないんですよ、最近は」

確かに圧迫感に囚われる時もあるけど、と心の中で付け足す。

時々抜け出したいなあとか思って仕事に倦む時も、そうしないのは結局、其の先で、今の楽を投げても構わない程の、味わえる其れを、私自身が求めて居るからだ。

仕事をして居る時、怠けたいと思う時、別の道があったかなと思った時、毎度思うのだ。

『しなきゃいけない』と思う事は、未来の自分がして居て欲しい事。

そしてその未来求めて居る味を、私は現在知っている。

『期待に応えようと思ってよかった』『やってやろうと思ってよかった』

子供の頃から仕付けられた成功体験と大差なく、今迄よりもずっと大きいそれが、目の前にあるのだから。

「大丈夫ですよ」

朝日がもう高く上昇を始めている。

「……そか」

「はい」

二人して顔見合わせて、若干の沈黙が落ちて、其れが妙な感覚で、どちらからともなく、くすくす笑っていた。

お互い莫迦だ。理解にだって程遠い。

其れで良い。そう言う感じがした。

あの子との距離が妙だったように、此の人との距離も、之位が良いのだ。