[wrwrd]青に溶ける (ページ23)

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「マジで受けたんやな、其れ……」

げっそりとした我が上司に、「ま、腹括ってみましょう」と涼しく言う。言った物は取り返せない。

「何で人事と殆ど無関係な『税制改革問題』なんて持って来たんや」

「まあ、案件としてはその手始めの物ですがね」

其処は読めていたのか、と思いながら、資料に目を落す。

「部署の人事自体のシステムへの介入が目的でしょうね」

「ま、其れしかないよなあ」

はあ、と溜息を吐く鬱様。「もうちょっと早く云うてくれたらなあ」

その意見に対しては全く同意見なのだが、深いお考えが総統閣下にはあるに違いない、と思い直した。あのお方の心の底を推し量る事等、無駄の極みも良い処である。

「まあ多分……」

そう呟くと、ふと前の廊下をすっと見遣る。其処には誰も、何もない。彼は其のずっと先を見る様に、酷く聡明な光を目に宿した。

「……？」

其処で言葉を止めた意味も、脚を止めた意味も、少し、想像がつく様な、つかないような気がした。

後ろから、何処か遠慮がちに、人肌の温さが包み込む。

何時もの煙草の匂いが嗅覚を支配した。

両方の視界の端に、草臥れたスーツを着た二の腕がある。目の前で腕がクロスされている。

さらりと伸ばし気味の髪が、髪を上げて居る為に露わになる首筋に掛って、擽ったい。

思わず私も足を止める。

私の物では無い息が、ふわりと頬に掛った。

「ウチに来る観光客(スパイ)と、その御家の御様子伺いやろうなあ」

妙に低く喋る声が、吐息と共に耳を擽る。

ぞく、と体を走る妙な感覚に、体が硬直した。

少し名残惜しそうな遅さでバックハグを辞め、ふらりと再び歩き出す。相も変わらず読めず掴めもしない上司の行動に、やれやれと思いながらも、其の言葉を頭の中で反芻した。

……スパイ。

まあこんな国になれば、否、どんな国にも、私達が送っているのと同様に、スパイ位は存在する。数年前までは、戦争紛争で世界の緊張は高まるばかりだったので、スパイ狩りは盛んだった。

が、今ではその勢いも膠着し、そんな事は大っぴらにはできないでいる。

だとすると、総統閣下は戦争が起こる事を近々予測していらっしゃる……？否、唯スパイを狩りたいだけ？何方にしても、何故こんな回りくどい行動を？

態々税制と言う国政も財務も司る大事な場所を、人事と言う妙な方向から動かそうとして迄。

＊＊

割と勢いなので、変じゃね？とかは、ね……(苦笑)