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章大side


京都の大学に戻ってふた月近くが過ぎた。


大学から戻って、

下宿の一階、
郵便受けを開けると、

Aお嬢様からのお手紙が入ってあって。


胸が踊る。


慌てて、部屋に戻ろうとした時、


「ヤス、東京に残して来た恋人からの手紙か?」


背中に声をかけられた。


年は3つ程下やけど、

大学の一学年後輩の、
いや、今は1つ先輩の、大倉や。


この下宿の、俺の隣の部屋に住んでる。



「どれどれ?」


背が高いのをええことに、
俺の背後からひょいっと手紙を掠め取って、
勝手に封を開ける真似をしてる。


「返せや」


奪い返して、
大事に胸元にしまう。


「そないに大事にして。
中身は、愛の告白ばかりか?」


「いや。
お嬢様は、奥ゆかしい方やから、
日常が綴られてあるだけや」


ほんまは、近頃、気になってることがある。

お手紙の内容が、
どうも、俺の返信と、
噛み合わへんねん。


二十歳のお誕生日にお贈りした、
あやめ色の髪飾りは、
使うて下さってるんやろうか?

お嬢様なら、
お礼のお言葉を忘れるはずもないのに、

それについても、一言もあらへん。



大倉を振り切って、
自室に戻って、

外套も脱がずに、
大急ぎで封を開ける。



『拝啓 愛しい章大様。


肌寒さが身にしみる季節となりましたが、
お変わりありませんか?


私は変わらず、
住倉のお屋敷で、
安寧な時を過ごさせて頂いております。


東京では復興が進み、
以前の活気が戻ってまいりました。


流行り歌の、

花嫁人形は、
京都でも流行しておりますか?

物悲しい旋律で、

こんなこと申し上げたら、
章大さんに笑われてしまいそうですけど、

私、あの歌を耳にする度、
泣きとうなるんです。

・・・つまらないことを言うてしまいました。



師範学校の建築が完成を迎え、
近く再開することになるかと、
今から楽しみにしております。

修太郎も日々、
健やかに暮らしております故、
ご安心下さい。

章大さん、京都の寒さは格別故、
お身体にお気をつけて、
お勉強に励んで下さいね。


私がまだ女学校に通うてた頃、
餡蜜屋さんにお連れして下さったの、
まだ覚えてはりますか?


私、あの日のこと、この頃、
よう思い返すんです。



あの時、章大さん、
苦手やった珈琲を無理して飲んではったでしょう?

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亜季(プロフ) - 移行でまだ続きが読めるの嬉しいです! (2019年11月7日 22時) (レス) id: a8bccc7358 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - ちょうど良いところでまたお預けに笑 章大さん優しくて可愛いです。君がためも読んできました!たくさんの更新ありがとうございます! (2019年11月7日 15時) (レス) id: ad46af1069 (このIDを非表示/違反報告)
みき(プロフ) - ついに2人が…と思ったらお預けで、私が焦らされてます笑 続き楽しみにしています。 (2019年10月29日 7時) (レス) id: 1daab7209e (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - やきもち焼いて、ちょっと乱暴になる章大さんがかわいい! (2019年10月21日 22時) (レス) id: a8bccc7358 (このIDを非表示/違反報告)
むー(プロフ) - おまけの更新、とっても嬉しいです!続きも楽しみにしていますね。 (2019年10月21日 22時) (レス) id: d961b44abd (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:fool x他1人 | 作成日時:2019年6月14日 21時

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