うつせみの、君と。

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「そんな・・・」


「まさか、
決まった男がおるわけやないやろうな？」


お父様が今まで見たことのないような、
怖い顔で問い詰めはるから、怯んでしまう。


「そういうわけやないですけど・・・」


「なんや、それならええ。
櫻井様にお会いしたら、
お前もその気になるはずや。
政治をやっておられる、
大層、立派なお方やからな」


心底、安心したように、
お父様が大きな口を開けて笑わはって。

それ以上、何にも言われへんなってしもた。


そこに、まだ幼い弟の修太郎が、
マツさんに手を引かれて、庭先から戻って来た。


千景さんのお見送りに行ってたらしい。


「姉様、なんでお見送りせんかったん？
新しい母上様は、
天女様のように綺麗やったなあ。
僕、はよう東京に行って、一緒に住みたい！」


まだ５つにもならん修太郎は、
すっかり、千景さんに心酔してしもてるようや。

私の味方は、どこにもおらん。


お父様の結婚が、
どうしてこんなに悲しいんやろうか。

章大さんのおっしゃる通り、
私は親離れの出来ひん、
子供なんかもしれへん。


もしあの人を受け入れたら、
天国にあられるお母様を裏切ってるような、
そんな気持ちになるねん。


すっかり意気消沈してしもて、
部屋に戻ろうとした時、

章大さんが、
裏庭をこちらの屋敷の方に向かって歩いて来はるんが、目に映った。


普段は、まるで鶏小屋のような使用人の棟で暮らしてはる章大さんが、
こちらの母屋にやってくることは、
滅多とない。


途端に胸がうるさあなる。


「あっ、章大や！遊ぼ！」


修太郎が、窓を開けて、
縁側から、章大さんに声をかけた。

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