７ ページ43
「私、ほんまのこと言うと、
千景さんて、何を考えてはるんか、
少し怖いと思ってたんです。
でも悪い方やないんかもしれません。
一昨日の雪の夜のことも、
不問に付してくれはって、
お父様にも内緒にして下さったんです」
「そうやったんですか・・・」
今の姉やに、幼い頃の懐っこい面影は確かになかった。
名を変えて、
別な人間に成り代わって、
暮らしてるんや。
「千景さんのお陰で、
私の夢が叶ったんです。
感謝してます」
僕とこうして出かけることが、
夢や、なんて・・・
一途な想いに、胸が熱くなる。
きっと生涯をかけて、
この方を守り抜こうと、
心に誓った。
バスを降りる頃には、
夜もすっかり更けておった。
小さな街灯の下、
寄り添って、歩く幸せを噛み締めている。
「来週、旦那様と食事に行くことになっております。
その時に、僕たち、二人のことを、
申し上げようと思ってます」
僕たち、二人、という言葉の響きに、
照れてしまう。
ほんまは今でも不安でたまらへん。
櫻井様は、子爵家の長男さんでいらっしゃる。
女性の憧れの全てを体現化されたような、
そして、お人柄も、申し分ない、
素晴らしい方やとのお噂や。
「嬉しいです。
お父様、いつもお忙しそうで、
私の話など聞いて下さらないんです。
でも章大さんがお話してくれはったら、
必ず認めて下さいます」
大学ではどんな勉強をしてるのか、
熱心にお聞きになったり、
今日一日がどれ程、
素晴らしい時間で、
ときめいたか、
熱に浮かされたように、
お話されておったのに。
松下のお屋敷の裏門が近くなるほど、
Aお嬢様は無口になられて。
門に到着した時には、
ついに泣き出してしまわれた。
「離れたくありません・・・」
涙ぐんで、僕の肩にそっと額を乗せられる。
「Aお嬢様は、
ほんまに泣き虫でいらっしゃる」
ぐすん、ぐすん、鼻を鳴らしてはるくせに。
「泣き虫なんかと違います」
強がって、おっしゃって。
僕の着物の袖を引いて、
じっと、上目に見つめはる。
口づけをねだるような、しどけない表情に、
男としての欲望が刺激される。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 375人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を含むプレイリスト 
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
みき(プロフ) - 昨日foolさんが話題にしてくださったので、章大さんのうつせみの〜も、また読みにきました！やはり涙が( ；-；) (2021年5月26日 12時) (
レス) id: c6ee858f5f (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - 章大さんとのデート楽しかったです！お姉さんとも再会できて良かった。しかし切ない姉弟の道のり。お姉さんも幸せになって欲しいな。 (2019年5月24日 22時) (レス) id: 48f0771830 (このIDを非表示/違反報告)
ひ み さ(プロフ) - 個人的には今の「うつせみの…」が好きです♪ (2019年5月24日 12時) (レス) id: 6eb2ce4a4e (このIDを非表示/違反報告)
ぁぃ岡ちゃん(プロフ) - 完全な恋人。は、このお話に追いついてすぐに読みました！！！笑 foolさんの短編集ってオチが凝られてて難しくて理解できない時とかもあるんですけど、何度も読み返してちょっとずつ理解していきます♪ (2019年5月24日 3時) (レス) id: 33dffdafbe (このIDを非表示/違反報告)
亜季(プロフ) - 想いが通じて良かったー。章大さんが予想外の男らしい行動で引っ張ってくれるので、着いていきます。 (2019年5月21日 22時) (レス) id: 48f0771830 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：fool x他1人 | 作成日時：2019年5月7日 15時
