うつせみの、君と。

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「お嬢様、そないに真っ赤になられて。
びっくりさせてしまいました」


章大さんが、優しい目を細めて、
私の前髪にそっと触れはって、

胸がまたきゅうっと鳴いた。


けど、章大さんが、
こないにおなごの扱いに慣れた方やなんて。

・・・素直になられへん。


ぷいっと、顔を背けてしもた私に、
章大さん、慌て出しはった。

困り果てた様子で、


「・・・お嬢様？
お嫌でしたか？
勝手なことして、
申し訳あ、」


謝らはるから。


「違います！」


慌てて遮る。


「章大さんが、
そないに、自然なご様子やから。
その、
章大さんは、他の女性とも、
こんな風に、く、」


口づけなんて、
乙女の口からは、
どうしても言われへん。


「何でもないんです。
おっ、おやすみなさいっ」


口の中でだけ早口に言うて、
背中を向けかけたら。


「お待ち下さい！」


ぎゅうっと手を握り締められた。


「・・・先走ったことして申し訳ありません。
けど、こないなことしたのは、
あやふやな気持ちでやありません。
僕の気持ちは、もう決まっております。
Aお嬢様さえ、
僕と一緒に生きて下さるなら・・・」


じっと私を見つめて話してはったのに、
不意に、章大さんが目を伏せはった。

その表情が翳る。


章大さんの迷いが手に取るように伝わる。

私のことを諦めようとしてはるん？


それだけは嫌。


「私には、最初から章大さんしか、
見えておりません。
章大さん以外の方と生きていくなど、
考えられません。
それに・・・
私は、お好きな方としか、
あんな、恥ずかしいこと、しません」


気持ちが昂ぶって、
また涙が溢れそうになって、
そんな私を、
章大さんが、きつく抱いて下さる。


「僕から、旦那様にお話します。
許して下さるまで何度でも」


「章大さん・・・
私からもお父様にお願いしてみます。
でもその前にお願いがあります」


言うてええんやろうか、おなごから。


ためらってる私を、


「・・・ん？
なんなりとお申し付け下さい」


章大さんが、優しい口調で促さはった。


「章大さん、汽車の中でのお約束、
覚えてはりますか？」


「もちろんです。
銀座のプランタンでのお食事ですね。
それと、金色夜叉のシネマを見に行くと・・・」


覚えていて下さっただけで、
天にも昇りたい気持ちになる。

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