薄氷の上を生きる僕ら 3 ページ18
それからというもの、月日は飛ぶように過ぎるとは良く言ったもので。珀氷と過ごす毎日は新鮮でとても楽しくて、面白くて、日付など全く気にしていなかった。するとあっという間に新年を越してしまった。
そこからだろうか。珀氷の様子がだんだんとおかしいと感じはじめたのは。
いつもは自らがやりたいと言って聞かない風呂掃除をやり忘れたり、これが得意だからといつも作っていたおにぎりを全く作らなくなったり。あと、細かいことだが珀氷の枕カバーがよく洗濯されているのも変化だ。
バイトから帰ると、暖かく明るいはずの部屋が真っ暗で、冷たい風がヒュンと通り抜けてきた。
「おい、珀氷?いるんだろ…?」
靴を脱ぎ部屋を捜索すると、珀氷はベランダにいた。しかも、白狐姿で。
「あぁ、おかえりんしゃい。」
「おかえりんしゃい。じゃないだろ。どうしたんだよ、寒いのに外に出やがって。お前、最近変だぞ。なんか嫌な事とか、あったのかよ?」
珀氷は目を伏せ気味に、「お前さんには話しておきたいな」と前置きして、話しはじめた。
「僕は、神様に仕えていたことは、覚えてるか?そのことを思いだしていたのだ。…仕えていたときは、主様のことも、周りの仲間たちも好きだったさ。
でも、あの神社に誰もお参りしに来てくれなくなって、寂れて、
主様も弱ってきて、忘れられて、みんなも別のところに仕えに行ってしまい…
それなのに、僕は主様のことを裏切った、だから、神界でまた主様に仕えるなんて、出来る訳がないのだ。
生憎この世に興味はあったし、もう戻れない以上、ここで生きていく覚悟もしていた…なのにな……こんなにも寂しいと感じるなんてな……」
最後の方は、声が震えてしまっていた。それに合わせて、鈴も消え入りそうにチリチリン、と震えた音で答えた。それきり、珀氷は言葉を発さず静かにアーモンド形の月を眺めている。
俺は、珀氷のことを助けたと思ってたけど、全然違ったんだ。むしろ、その過去を生々しく思い出させようとしてたんじゃないか?珀氷が過ごしたこの2ヶ月、一人で過ごした時間、珀氷はどれほどの孤独を感じていたんだろう?
自分の軽率な行動、珀氷の気持ちを考えなかったのを恥じる。柵に乗せた腕を、両手でぐっと掴んだ。
「珀氷、気づいてやれなくて、ごめん。珀氷の気持ち、全く考えてなかった。」
「…別にお前さんが謝る事じゃなかろう、」
と言いながらも、珀氷はプイとそっぽを向いた。
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