1話 ページ3
僕がモストロ・ラウンジで働くのは、いつも通りのことではない。
本来なら僕は、経営には一切関係ない人間だ。
あの日はたまたま、足りない人手を補うために駆り出されたに過ぎない。
「お待たせぇ、A。いっぱい作ってあげるから、好きに食べてねぇ」
「ふふ、貴方がこうして食べにきてくれるのは初めてですものね。何かあれば、遠慮なく仰って下さい」
「ああ、うん、どうも……」
こうして、バイト代に上乗せする形で夕食代を免除してもらうのも、本来ならあり得ないことだ。
他ならぬジェイドとフロイドが、アズールに頼みこんで実現させた結果である。
嬉々として料理を食べさせたがるその真意は、正直よく分からないのだけれど。
(たまにアルバイトとして入るくらいだから、ちゃんと中を見たことはあまりないんだけど……自分で店を作っちゃうその執念が、どうにもアズールらしいというか)
彼の心の奥底に隠された本質を、小さい頃のクラスメイトというだけの理由で僕は、偶然にも知ってしまっている。
そのことをうっかり話してしまったフロイドのおかげか、誰にも喋らない代わりにこうして、細かいところで色々と優遇してもらっているのだ。
とはいえ、この前アズールが暴走してしまった一件で、彼の黒歴史は一部の人間に知られてしまったようではあるが。
「おや、今日はAさんもいらしてるのですか。ここで食事をするのは初めてでしたっけ？」
「うん、初めて。お店の雰囲気は悪くないけど、僕は別に質素な食事で構わない口だからね」
「そうですか。まあ、ここ最近は特に忙しい状況が続いていますから、貴方がシフトに入ってくれたのは正直助かりましたよ。約束通り、今日の夕食代はこちらが持ちますので、常識的な範囲でなら好きに食事していってくれて構いませんよ」
「そりゃどうも。ただ、あの二人が常識の範囲内に収めてくれればいいんだけどね」
今もこうして、客がひっきりなしに訪れているというのに、一体どこにそんな余裕があるというのか。
ことあるごとに食べたいものはないかと尋ねに来ては、頼んでもいない料理やドリンクを置いて去っていくウツボがいる。
いつから僕は、コース料理を食べに来ていたのだろう。
そう錯覚してしまうほどに、彼らの猛攻は止まらなかった。
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藤川秋(プロフ) - ララーサさん» ララーサさん、はじめまして。ご指摘ありがとうございます！確認したところ、確かにフロイドの方が正解でした。完全に見逃してたのでありがたいです。感想もありがとうございます、とても励みになります！ (2020年11月23日 21時) (
レス) id: 93e3af9b0c (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - ↓の9話です！ (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
ララーサ - 僕の勘違いだったやごめんなさい。主人公とジェイドくんのやり取りで、「僕とジェイドが?」という所「僕とフロイドが？」だと思います。間違っていたらごめんなさい！あと、この物語とても面白いです！頑張ってください！ (2020年11月23日 18時) (レス) id: 60e0ce23dd (このIDを非表示/違反報告)
藤川秋(プロフ) - イルカの生姜焼きさん» イルカの生姜焼きさん、初めまして。主人公は基本的に、いい子ではなく、少し人間味の欠けた人物に敢えてしようと思っていましたので、そう言っていただけるととても嬉しいです！素敵なコメントと応援をありがとうございます。 (2020年6月14日 14時) (レス) id: d1eae4f705 (このIDを非表示/違反報告)
イルカの生姜焼き(プロフ) - 18話の一番最後で主人公の"興味がないことだ"に対して凄いヴィランぽいっと思いました。上から目線になってしまいすみませんがこれからも頑張って下さい。 (2020年6月14日 11時) (レス) id: ca6db90150 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：藤川秋 | 作成日時：2020年5月26日 15時
