大正ロマンス物語

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日曜の朝早く、

神山家にやって来はったのは、
やはり昨日の芸妓さん。


子供じみてる笑われるやろうけど、
到底、お会いする気になんてなれずに、

私は襖の陰からこっそり覗いておるだけやけど・・・


その方が、
ほんまにお綺麗な方やということだけは、
嫌という程、痛感した。


立ち姿も、

お紅茶を飲む、
ちょっとした所作も、

話す声も使わはる言葉さえも、

何もかもが洗練されて、上品で、

まるで、おとぎ話のお妃様のように、
気高い。


年の頃は、
私の母上様というよりは、
姉上様に近い。


今年、４３になるお父様とは、
一回りは離れてるように見える。


お母様が言うてはった、

卑しく、可哀想な身分の者には、

どこからどう見ても、到底感じられへん。


千景さん、おっしゃる、
その方が帰らはってから、
慌てて、自分の部屋に戻ろうとしたところ。


「智花、お前はほんまに強情な娘や」


お父様につかまってしもた。


「申し訳ありません。
まだ心の準備が出来てないんです。
いきなりあんなお若いお綺麗な方を、
お母様やなんて言われても」


「・・・無理に母親や思う必要はない。
子供が出来たからな、
見受けはするが、
籍を入れるつもりはない。
内縁の妻や。
一緒に住むのも、
お前が菊池家に嫁に行くまでの、
ほんの短い間の話や」


「私はお嫁になど、」


行きません、と言う前に、


「嫁に行かん娘がどこにおる」


そう、遮られてしもた。


「私は、好きな方と恋をして結婚したいんです」


「好きな男？
恋やの愛やの、
そんな下卑た言葉は、
卑しい出のおなごが言うことや。
きちんとした良家の娘は、
色めいたはしたない心など、
持ち合わせておらん。
家のために、親の決めた相手と結婚する。
それがおなごの一番の幸せや」


「そんな・・・」


「まさか、
決まった男がおるわけやないやろうな？」


お父様に、
今まで見たことのないような、
怖い顔で問い詰められて、怯んでしまう。


「そういうわけやないですけど・・・」


「なんや、それならええ。
菊池様にお会いしたら、
お前もその気になるはずや。
政治をやっておられる、
大層、立派なお方やからな」

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