大正ロマンス物語

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「智花、ご挨拶なさい。
お前の許婚の菊池風磨さんをお連れした」


「許婚・・・？」


私はまだ１７や。

結婚など、遠い先のことで、
現実的では、あらへんのに。


ほんまは・・・


大毅さんとの将来を、
一人勝手に夢見てる。


大毅さんのお気持ち、
お言葉にして頂いたわけやないから、

不安でたまらん毎日。


「風磨さん、さあ、どうぞ」


お父様に促されて、
背広姿の菊池様が、広間に入っていらっしゃった。


思ってたような、
ひどく年上の方ではない。

２４歳の大毅さんと、同じ年頃やろうか。


「娘の智花と、花街から落籍させた妻の千景です」


千景さんをそんな風に紹介しはったのに、
菊池様は顔色ひとつ、お変えにはならへん。


「お初にお目にかかります。
菊池風磨と申します」


「はじ、めまして。
神山智花と言います」


「やっと本物の智ちゃんにお会いすることが、かないました。
実物は、お写真よりも、ずっと素敵な方ですね」


菊池様はいかにも、
女の人に慣れてらっしゃる雰囲気で、
少し戸惑ってしまう。


「あまりにご立派な青年で、
智花は照れてしまってるようやな。
それも無理はない。
菊池家は皇族の血を引く御子爵家。
お祖父様もお父様も貴族院議員様や。
ご長男の跡取り息子の風磨さんは、
日本の将来を背負って立つお方。
まして、当代切っての色男。
日の本のおなご、
みなの憧れの存在でいらっしゃる言うても過言やない。
そんな引く手数多のお方とご縁があるとは、
我が娘ながら、
お前は幸運の持ち主や」


お父様はご機嫌が良く、
いつも何倍も饒舌でいらっしゃる。


「神山様、お言葉が過ぎます。
僕はそれほどの者でもありませんよ」


菊池様は、
年配の威厳あるお父様の前でも、
臆することもなく、堂々してらっしゃる。


きっと、世間の女性は皆、
このような雲の上にお暮らしの方とのご縁を夢見ておられるんやろう。


そやけど私は・・・


やはり、好きな方と一緒になりたいと、
強く思う。

先ほど、千景さんが素敵とおっしやった、

ゴンドラの唄の歌詞を思い起こす。


もう一度、噛み締めてみて、

なんと、私の心の内に秘めた願いを如実に現した歌やと、感じた。

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