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大正ロマンス編 第一章 1 ページ1

緑side


大正10年、夏のはじめ。


お庭の池の周りに、
群生したあやめの花が、
咲き乱れ出した頃。


最近は東京でのお仕事がお忙しいお父様が、
珍しく、京のこの本宅に、
帰って来て下さった。


今日こそ、
芝居小屋や百貨店に連れて行って下さる思て、
はしゃいだ気持ちで駆け寄ったのに・・・


「すぐに出かける。
智花は、部屋でお花の稽古でもしてなさい」


素っ気なくおっしゃって、
私を無碍になさるねん。


そのくせ、

ネクタイを選ぶ、その横顔は、
ほころんでらっしゃる。


近頃大流行中の、
立襟にネクタイの背広姿。

恰幅のいい威厳のあるお父様には、
大変、お似合いで素敵やと思う。


一昨年、お母様が亡くなってから、

ネクタイを選ぶのも、
靴べらを渡すのも、

女中頭のマツさんやなくて、
私のお役目。


明日は女学校もお休みやし、
お約束を取り付けようと思った矢先。


「そうそう、明日な、
ともに会わせたい人がおるんや」


お父様がそんなことを言い出された。


「お見合いのお話なら、
お断りしたはずです。
私は東京になど、行きとうありません」


「いや、そうやなくてな、
そろそろ、私も再婚しようと思ってな。
お前の新しいお母さんや」


何をおっしゃってるんか、
お言葉が、胸の表面を素通りしていく。

お母様の三回忌も済ませてへんというのに。


昔から、お父様には、

東京や、祇園にも、
お母様以外の別の女の人があることは、
なんとなく知ってはおったけど、


それはただの妾で、男の人の遊びのうちやと思うてた。

まさか、きちんと、ご結婚されるなんて・・・


「新しい嫁をもろうたら、
ここは引き払って、
東京で暮らそうと思うんや。
とももそのつもりでおりなさい」


「そんな。
それに、私はそんな見知らぬ土地になど、
行かれません。
誰も知る人もおらんのに・・・」


「修太郎はもちろん、
ここの女中はみんな連れて行く。
お前一人、京に残っても、
余計に寂しいだけやろう。
東京に移って、
菊池さんにお会いしたら、
ともの気持ちもきっと変わる。
嫁に行くのに早過ぎるいうわけでもないというのに。
いつまでも少女のように、
甘えてはおられん。
分かるやろう?」

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水無月こすも(プロフ) - きゃぁぁぁ赤さんきゅんきゅんですぅぅぅ🥺🥺🥺早く結ばれてほしい、けど許嫁が、、、😢ドキドキきゅんきゅんです、はわわ、、、 (2022年4月1日 20時) (レス) @page31 id: c7a7f3b3ba (このIDを非表示/違反報告)
水無月こすも(プロフ) - 毎回foolさんの書く文章の綺麗さに感激してます、設定が高い身分だからだと思うんですけど、いつも素敵な文章書かれるなぁと惚れ惚れしてます〜😌とうとう緑さん女の子!(笑)可愛いからアリです🙆🏻‍♀️続き楽しみにしてます! (2022年3月29日 12時) (レス) @page11 id: c7a7f3b3ba (このIDを非表示/違反報告)
このみ - 重岡 (2022年3月28日 17時) (レス) @page2 id: 25b3f023e7 (このIDを非表示/違反報告)
こっこ(プロフ) - 女体化のお話が密かに好きなので更新楽しみにしています!!智花ちゃんの可愛さが容易に想像できます。赤くんの女の子のお話もいつか見てみたいかもです(笑) (2022年3月28日 1時) (レス) id: a4b13bf62f (このIDを非表示/違反報告)
みさき(プロフ) - 更新ありがとうございます!緑くんの女の子すぐ想像出来ました笑また楽しみができました!よろしくお願いします! (2022年3月27日 22時) (レス) @page5 id: 06114767fe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:fool | 作成日時:2022年3月27日 20時

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