心に火が灯る ページ15
「……」
しっかし無言。そのまま見つめ合う時間が酷く長いような気がした。
固まる美風さんを訝し気に見ると、彼は目を丸くした状態のまま、薄い唇を開く。
「……変わるもんだね」
それはそのままストンと、私の胸に落ちてきた。
重長くもっさりとしていた髪の毛は綺麗に整えられ、きちんとミディアムに切りそろえられた。自分でも分かりやすいくらいに世界は明るく見えて、確かに私も変わったと思う。
けれど、不思議だ。それは変化自体を極端に嫌っていたからである。
人というものは良くも悪くも変わっていく生き物なのは勿論承知だ。しかしそのせいで、今まで積み重ね挙げてきた生活や夢は乱され、持ち上げられ、壊されとサンパターンの中から崩れる。
そのおかげで何度も散々な目に合ったものだ。だから私は変化というものを嫌っている。
しかし、心の内にわくこれはなんだ。
くつくつと湧き上がり、自然と口元が緩む。そうだ、これは喜びだ。
「ありがとう」
驚くくらい自然に言葉が出てきた。自分でもどうしてなのか分からない。
美風さんも一瞬驚いたように薄ら目を開き、すぐに緩めた。
「どういたしまして」
そう言った彼は初めて私に微笑んだ。
作った笑顔じゃなく、あの意地悪そうな笑みでもなく、優しさ溢れた穏やかな微笑。触れればすぐに溶けてしまいそうなくらい儚くて、それでいて美しい、美風藍の微笑みだった。
それを見た時、私は思ったのだ。――彼のために、綺麗になりたい。
心からの願いだった。それだけが胸を埋め尽くして、それ以外考えられない。
ゲームにつられたからじゃない、主人公になりたいと思ったわけじゃない、ただ彼に認められたいと思った。そのためなら何だって飛び越えられるような、そんな気がしたのだ。
ああ、暖かい。
希望を持つということは、こんなにも暖かいものだったのか。
「でも、調子乗っていられないよ。まだまだやることはいっぱいあるんだ」
「あでっ」
美風さんのチョップが降ってきた。なんでだろう、すごく虚しい気がする……。
先にスタスタと颯爽と歩き出した美風さんの背中を恨めしく睨んで、頭を手で抑えながら追いかけた。ぜったいぜったいぜったい、綺麗になってやるんだから!!
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有栖(プロフ) - 更新、頑張って下さい!! (2016年3月13日 10時) (レス) id: d04813d339 (このIDを非表示/違反報告)
稲葉ふゆき(プロフ) - 遅れてすみません。コメントありがとうございます!これからもこの作品をよろしくお願いします (2016年1月9日 23時) (レス) id: 3715ce0b63 (このIDを非表示/違反報告)
美風りつか - とても面白いですね!これからも頑張ってください!楽しみにしています(*^^*) (2015年9月3日 1時) (レス) id: 1f55841bfd (このIDを非表示/違反報告)
水島リツ(プロフ) - 久しぶりに来てみたら少し更新されてて、飛び上がって喜びました笑。これからも頑張ってください!陰ながら応援してます! (2015年7月20日 1時) (レス) id: 1b884eaa7e (このIDを非表示/違反報告)
稲葉ふゆき(プロフ) - みーちゃんさん» ありがとうございます!なんというか、書きやすいんですよね(笑) 最近更新低下していてすみません……。以後、気を付けます。 (2015年7月17日 15時) (レス) id: b109ce92e2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:稲葉ふゆき | 作成日時:2015年4月3日 1時